『市民ケーン』、すべて真実

古典的名作「市民ケーン(1941年)」の製作過程を明らかにしたロバート・L.キャリンジャーの本。勿論、本書を手にしたのは「Mank/マンク(2020年)」を見たことがきっかけであり、「市民ケーン」の脚本を書いたのは誰かという謎を解明するのが第一の目的。そ…

なぜ日本は没落するか

経済学者の森嶋通夫が1999年に発表した著作。宇沢弘文と並ぶ数理経済学の泰斗の著作ということで、日本経済の根本的な問題点を鋭く指摘した内容なのだろうと思って手にしてみたのだが、意外にも本書で検討の俎上に載せられているのは我が国の政治の問題であ…

「線」の思考

“鉄道と宗教と天皇と”という副題が付けられた原武史の本。鉄道好きとしても知られる著者が2018年6月号から20年6月号まで8回にわたって「小説新潮」に連載した文章がベースになっており、タイトルにある「線」というのは主に鉄道の路線のことを意味してい…

詩人と狂人たち

G.K.チェスタトンが1929年に発表した短編集。チェスタトンの作品であるということ以外、何の予備知識もなしに読んでみたのだが、内容は画家兼詩人のガブリエル・ゲイルを主人公とする8つの連作短編であり、最初の「風変わりな二人組」にはあまり謎解き的要…

神々の明治維新

“神仏分離と廃仏毀釈”という副題が付けられた安丸良夫の本。神社仏閣巡りはこれからの妻との“老後”に彩りを添える主要なイベントの一つなのだが、その際に気を付けなければならないのが明治初期に吹き荒れた神道国教主義化の影響であり、これを知らないでお…

松本清張全集30

ノンフィクション作品の「日本の黒い霧」を収録。順番通りなら「草の陰刻」という耳慣れない長編小説を収録した第8巻を読むべきところなのだが、ちょっとした箸休めの気分で本作を先に読んでみることにした。こちらは非常に有名な作品ということで名前だけ…

一度きりの大泉の話

萩尾望都が“大泉時代”の記憶を綴った「人間関係失敗談」。ちょっと前に購入しておいたのだが、中上健次の「地の果て 至上の時」を読み終えるのに思ったより手間取ってしまい、なかなか手に取ることができずにいた。しかし、その反動もあってか、本書を読み始…

中上健次全集6

長編の「地の果て 至上の時」を収録。この作品は、作者の代表作である「枯木灘」の続編に位置づけられる内容であり、前作の最後で異母弟を撲殺してしまった主人公の秋幸が3年の刑期を終えて故郷である熊野の地に戻ってくるところから始まる。したがって、(…

少年の名はジルベール

漫画家の竹宮惠子(=へぇ~、改名してたんだ。)が、上京後、「風と木の詩」を発表するまでの経緯を綴った自伝的作品。著者は、いわゆる「花の24年組」の一人であるが、萩尾望都、大島弓子、山岸凉子といった天才たちに比べると個人的評価は相当低く、代表…

資本主義後の世界のために

「新しいアナーキズムの視座」という副題が付されたデヴィッド・グレーバーの本。本当は、今話題の「ブルシット・ジョブ―クソどうでもいい仕事の理論」を読んでみたかったのだが、図書館で検索したところ予約者数が多すぎてなかなか順番が回ってこないみたい…

奇譚カーニバル

1995年に刊行された夢枕獏によるテーマ・アンソロジー。編者自身の解説によると今回のテーマは“奇妙な話”であり、小泉八雲「茶碗の中」、夏目漱石「夢十夜」、小川未明「大きなかに」、内田百閒「件」、幸田露伴「観画談」、横田順彌「昇り龍、参上」、山田…

神々の乱心

松本清張の絶筆となった未完の長編ミステリー小説。本当は、現在読み進めている松本清張全集を読破してから読むつもりでいたのだが、まだまだ先は長そうであり、つい我慢が出来なくなって手を出してしまう。しかし、本作には直接のモデルになった「島津ハル…

黒い皮膚・白い仮面

精神科医であり、理論家・革命家としても知られるフランツ・ファノンが1952年に発表した著作。昨年来のブラック・ライブズ・マター運動の影響もあって読んでみたいと思っていた本の一つなのだが、NHKの「100分de名著」で取り上げられるというニュースを耳に…

中上健次全集3

「岬」、「枯木灘」、「覇王の七日」の3編の他に短編集「化粧」を収録。当然、お目当ては作者の代表作である「枯木灘」なのだが、その前・後日潭とも言うべき作品が含まれている故、全集の方で読んでみることにした。ちなみに最後の「覇王の七日」は10ペー…

滝山コミューン一九七四

政治学者の原武史が2008年に発表した第30回講談社ノンフィクション賞受賞作。前に読んだ國分功一郎の「暇と退屈の倫理学」の中で、「原武史は『滝山コミューン1974』において、戦後民主主義の『みんな平等』の理念によって小学校のなかに造られた恐るべき秩…

21世紀の資本

2013年に公刊され、世界中でベストセラーになった経済学者トマ・ピケティの著書。名前だけは以前から聞いてはいたのだが、それがドキュメンタリー作品として映画化されたという情報を耳にして吃驚仰天。まあ、上映時間2時間足らずのその映画を見てしまえば…

十二人の手紙

井上ひさしが1978年に発表した連作短編ミステリー。たまたまネット上で褒めている記事を目にして読んでみることにしたのだが、井上ひさしの小説を読むのはおそらく今回が初めて。その最大の理由は言うまでもなく俺の“西洋かぶれ”にあるのだが、この作者の場…

昭和維新試論

以前読んで面白かった「ナショナリズム―その神話と論理」の16年後に出版された橋川文三の著作。解説を担当した鶴見俊輔の文章を参考にするなら、本書の目的は、「占領軍の指す方向にしたがって、昭和初期のナショナリズムを軍国主義と一つのものとみなす」と…

松本清張全集7

短編集「別冊黒い画集」と「ミステリーの系譜」に収められた計9編の短編を収録。といっても、解説を担当している荒松雄氏によると「別冊黒い画集」というのは「昭和38年1月から翌39年4月まで『週刊文春』に連載された」ときのタイトルだそうであり、実際…

暇と退屈の倫理学

哲学者の國分功一郎が2011年に発表した著作の増補新版。以前読んだ「中動態の世界」がなかなか面白かったので、暇つぶしがてら(?)に読んでみようと思ったのだが、暢気そうなタイトルにもかかわらず、物理的にも内容的にもとてもボリュームのある作品であ…

これからの「正義」の話をしよう

マイケル・サンデルが2009年に発表し、我が国でもベストセラーになった哲学書。翻訳が出たときから興味を持っていたのだが、そこで批判的に取り上げられているというジョン・ロールズの「正義論」を完読していないことに引け目を感じてしまい、それから約10…

日本アパッチ族

小松左京が1964年に発表した彼の処女長編小説。出版社が早川書房ではなく、光文社だったからなのかもしれないが、昔から“非SF小説”というイメージが強く、そのせいで作者の代表作として取り上げられる機会も少なかったような気がする。しかし、今回読んでみ…

知の果てへの旅

数学者のマーカス・デュ・ソートイが2016年に発表した一般向けの科学解説書。大学は文系だったので、高等学校卒業後における自然科学関係の知識の供給はもっぱらアイザック・アシモフの科学エッセイに頼っていたのだが、彼の惜しまれる死によってその補給路…

逝きし世の面影

江戸末期から明治の初めにかけて日本を訪れた欧米人が残した訪日記を題材にした渡辺京二の代表作。「第一章 ある文明の幻影」によると、本書における著者の「意図はただ、ひとつの滅んだ文明の諸相を追体験することにある」そうであり、その「滅んだ文明」と…

松本清張全集6

長編の「球形の荒野」と短編集「死の枝」を収録。「球形の荒野」は、奈良で古寺巡りをしていた女性が、ある寺の芳名帳の中に既に亡くなっている筈の叔父のものに酷似した筆蹟を見つけるところから始まるミステリイ小説。その叔父というのは外交官であり、戦…

遙かなるアリランの故郷よ

栃木県朝鮮人強制連行真相調査団が1996年7月から1年余に渡って実施した調査の記録。足尾近辺の山々を歩いていると、朝鮮や中国人労働者の慰霊に関するモニュメントを目にする機会がたまにあり、いま何かと話題になっている徴用工問題と足尾銅山の関係につ…

堀田善衛全集6

長編小説「審判」のみを収録。「時間」に次いで読んでみたかったのが、1960年1月から3年余に渡って「世界」に連載されたという本作であり、物語の主な舞台になるのは60年安保闘争に揺れる1959年の東京。しかし、作品の最大のテーマになっているのはその14…

堀田善衛全集3

「時間」と「夜の森」という2編の長編と8編の短編小説を収録。直接のお目当ては「時間」だったのだが、田舎の図書館には1955年が初版の新潮社版も2015年に再版された岩波現代文庫版も置いてなかったため、やむを得ず全集に収録されたものを読んでみること…

正義論

ジョン・ロールズが1971年に発表した政治哲学の名著。この本を購入した経緯は今でもよく覚えており、大学の独占禁止法の講義で一部紹介された内容に興味を抱いたのがそもそもの発端。そのときにはまだ邦訳が出ていなかったのだが、社会人一年生となった1979…

正統とは何か

G.K.チェスタトン著作集の1巻目。さて、本書のテーマである「正統とは何か」という問に対する答は、早くも冒頭の「1 本書以外のあらゆる物のための弁明」の最後で明らかにされており、それは「厳然たる事実として、キリスト教信仰の核心が、現実生活のエネ…