松本清張全集7

短編集「別冊黒い画集」と「ミステリーの系譜」に収められた計9編の短編を収録。

といっても、解説を担当している荒松雄氏によると「別冊黒い画集」というのは「昭和38年1月から翌39年4月まで『週刊文春』に連載された」ときのタイトルだそうであり、実際には、「著者自身があまり評価しなかったという第3話『獄衣のない女囚』(=この作品は全集にも収録されていない。)」を除いた6編が、「事故」及び「陸行水行」の2分冊として出版されたそうである。

その「別冊黒い画集」の中で一番ボリュームがあるのが冒頭の「事故」であり、荒氏も言うとおり、東京都内で起きた「トラックの民家突入と山梨県下での2人の死体発見とは別の事件のようでいて次第に結びついていく」という前半はとても面白いのだが、何故か後半に入ると急に失速してしまい、最後の謎解きは無理矢理こじつけたような形で終わっている。

その他の作品でも、特に目立ったトリックや謎解きを有する作品が見当たらないのがこの短編集の特徴(?)であり、やはり荒氏の言うとおり、「破滅の道へ引きずりこまれていく人間の弱さやその心理的葛藤などを見きわめ」ながら「推理風短編として読めば、どれもけっこう楽しめる」のかもしれない。

そんな中で一番面白かったのが、「邪馬台国に関する有名な『魏志倭人伝』の国名・地名の解釈をめぐって古代と現代とを交錯させたロマン」と評される「陸行水行」であり、登場人物のセリフを借りて作者オリジナルの“地名考証”が披露されている。結局、犯罪らしきものは一つも出てこないため、この作品を推理小説と呼ぶのには相当の無理があるが、古代史の謎に挑んだストーリーは非常にスリリングであり、推理小説ファンの欲求も十分満たされる内容になっている。

一方の「ミステリーの系譜」に属する3編は、いずれも実際に起った殺人事件を取り上げた「ドキュメンタリー風の作品」であり、最初の「闇に駆ける猟銃」が題材にしているのは昭和13年に起きた例の津山事件。個人的には、映画等で見た横溝正史の「八つ墓村」のモデルになったことくらいしか知らなかったが、牧歌的なイメージのある“夜這い”にしても、やはり嫉妬や猜疑心といった“痴情のもつれ”と無縁ではないことが良く分る。

また、最後の「二人の真犯人」では、警視庁の行った証拠のでっち上げが鮮やかに検証されており、「『不粋な』警察」は「女が地の厚いフランネルの腰巻を二枚も重ねてつけるようなことはしない点に気がつかなかった」という作者の指摘がとても愉快。その他にも、被疑者の独房に諜者を送り込んで虚偽の自白を促すといった不正な工作が明らかになっており、正直、こういった警察の体質は今までにどれくらい改善されたのだろうか。

ということで、この巻で面白かったのはいずれも正統な推理小説のジャンルには属さない作品ばかりであり、う~ん、再びちょっと推理小説に飽きが来ているのかもしれないなあ。以前、第3巻を読んだ後に第32巻に浮気をした前例もあることだし、次はまた推理小説以外のジャンルに手を出してしまうかもしれません。