詩人と狂人たち

G.K.チェスタトンが1929年に発表した短編集。

チェスタトンの作品であるということ以外、何の予備知識もなしに読んでみたのだが、内容は画家兼詩人のガブリエル・ゲイルを主人公とする8つの連作短編であり、最初の「風変わりな二人組」にはあまり謎解き的要素は見当たらないものの、全体的にはゲイルを探偵役にした“幻想ミステリ短編集”ということになるのだろう。

正直、ブラウン神父ものより「木曜日だった男」や「新ナポレオン奇譚」を好む当方の趣味からするとやや残念な結果ではあるが、ゲイル自身は「探偵小説の中で論じられるような実際的な問題では、警察に比べたら、僕なんか馬鹿みたいに見えるだろう」というキャラクターであり、探偵役としては相当“風変わり”な部類に属することになるのだろう。

そんな主人公が得意とするのは「実際的でない」分野であり、既に実態が実際的なことの領分を越えてしまったような「最悪の状況」で必要とされるのは、彼のような「実際的ではない人間」であるというのが彼の主張。事実、本作に登場する“犯人”たちはいずれも常識の範囲を飛び越えてしまった狂人ばかりであり、彼らの常識では理解し難い奇妙な行動を読み解くことができるのは、かろうじて狂気の一歩手前で踏み止まっているゲイルだけということになるらしい。

正直、この(ある意味)魅力的な設定が完璧に活かされているかというとちょっと首を傾げてしまうところもあるが、砂浜で刺殺された被害者の足元に残されていた一匹のヒトデから犯行のトリックを看破するという「鱶の影」の結末は、画家兼詩人という主人公ならではの名推理であり、絵画的なイメージのせいもあって本書中で最も印象に残る作品になった。

ということで、チェスタトンの最大の魅力はその修辞的な文章にある訳であるが、正直、就寝前にベットで横になって読んでいるとすぐに眠くなってしまうのが大きな難点。機会があれば図書館にある彼の著作集も読破してみたいと思っているのだが、そのためにはきちんと机に座って読む必要がありそうです。