バビロニア・ウェーブ

「司政官 全短編」に続くKindle Unlimitedの2冊目。

作者は、俺が若かった頃に“我が国では希少なハードSF界の旗手”として活躍が期待されていた堀晃であり、本作は彼の記念すべき長編第一作目だったと記憶している。内容は、銀河面を垂直に貫く直径1200万キロ、全長5380光年に及ぶレーザー光束“バビロニア・ウェーブ”の謎の解明に挑む科学者たちの姿が描かれており、うん、設定としてはなかなか魅力的。

このバビロニア・ウェーブから無尽蔵のエネルギーを得られるようになったことにより、人類にとっては正に我が世の春的な繁栄が約束された訳であるが、一方ではバビロニア・ウェーブのそのような現世的な利用を潔しとしないヘソ曲がりたち(?)も存在する訳であり、彼等の興味はさらなる外宇宙へと向かっていく、というストーリーも決して悪くない。

しかし、残念ながらストーリーテリングがお世辞にも上手とは言えないため、読み進めるのは結構大変であり、読了後の感動を十分味わえない点でもとても勿体ない。アシモフ御大の例を引くまでもなく、良質なSFは同時に良質なミステリイでもあるべきなのだが、本作の主人公である宇宙飛行士マキタは探偵役として失格であり、読んでいてまだるっこしいったらありゃしない。

特に、最初から怪しさ満点であるランドール教授に対する“尋問”をなかなか行わないところはミステリイ的には完全な反則行為であり、もっと早いタイミングで彼の目的や彼が後生大事にしている“黒光りのする直方体のユニット”の正体を読者に明らかにするべきだったろう。

ということで、読了後にWikipediaで調べてみたところ、結局、堀晃が発表した長編小説はこれ一作だけであり、当時、期待されたほどの活躍は出来なかったみたい。まあ、別に“日本出身ハードSF作家”にこだわるつもりは無いのだが、アーサー・C.クラークの再来みたいな作家さんが出てきてくれないのはちょっぴり寂しいところです。