「線」の思考

“鉄道と宗教と天皇と”という副題が付けられた原武史の本。

鉄道好きとしても知られる著者が2018年6月号から20年6月号まで8回にわたって「小説新潮」に連載した文章がベースになっており、タイトルにある「線」というのは主に鉄道の路線のことを意味している。簡単に言ってしまえば、オジサンの“乗り鉄”がその旅の様子を記した紀行文のようなものであり、話題が“宗教と天皇”に特化しているところが著者らしいところかな。

まあ、そんな訳で内容はそれほど重いものではなく、サラッと読めてしまえるところが大きな特徴。一応、8つの文章ごとに一定のテーマが設定されてはいるものの、最初の「小田急江ノ島線カトリック」では“聖園女学院の創立者とも言うべき聖園テレジアの名前が、近時、学校の広報誌等から抹消されてしまったのは何故か”という謎が不明のまま放置されており、全体的にあまり突っ込んだ検討はなされていない。

また、最後の「聖母=ショウモから聖母=セイボへ」では、昭和天皇が1949年に「長崎の原爆で親を失った孤児たちの養護施設」である聖母の騎士園を訪問した際、「聖母マリアと一体化したかのように…『母』として園児たちに愛情を注ぐことに熱中した」のではないかという著者の推測が述べられているが、説得力は希薄であり、思い付き以上のものとは思えなかった。

ということで、本書を読んでいる際、NHKで放映されている「ブラタモリ」のことを何度か思い浮かべてしまったのだが、正直、この程度の内容であれば本で読むよりも映像で楽しんだほうがずっと快適そう。「線」を鉄路に限らなければネタは無尽蔵にあると思うのだが、TVの皇室タブーに抵触するする恐れがあるところがちょっと障害になるかもしれません。