奇譚カーニバル

1995年に刊行された夢枕獏によるテーマ・アンソロジー

編者自身の解説によると今回のテーマは“奇妙な話”であり、小泉八雲「茶碗の中」、夏目漱石夢十夜」、小川未明「大きなかに」、内田百閒「件」、幸田露伴「観画談」、横田順彌「昇り龍、参上」、山田正紀「雪のなかのふたり」、かんべむさし「俺たちの円盤」、筒井康隆「かくれんぼをした夜」、夢枕獏「柔らかい家」、椎名誠「猫舐祭」、タモリハナモゲラ語の思想」、とり・みき遠くへいきたい」、しりあがり寿「瀕死のエッセイスト」、杉浦日向子「百物語」の15作品が収録されている。

実は、上記作品の中のどれか一つを読みたいと思って本書の存在を認識した筈なのだが、老化の故か、しばらく経ってから実際に手にしてみるとそれがどの作品だったか憶えていないのが困りもの。最近の嗜好から推測すると、山田正紀しりあがり寿あたりではなかったかと思うのだが、まあ、どの作品もなかなか面白かったのでとりあえず良しとしておこう(?)。

さて、そんな中で一番印象に残ったのは小川未明の「大きなかに」であり、これが何とも言えぬ不気味な雰囲気を漂わせた逸品。ストーリーは、雪深い北国に住む太郎という少年が、海辺の村へ出掛けて行ったおじいさんの帰りを待っているというだけの内容なのだが、ようやく真夜中過ぎに帰ってきたおじいさんは、背中に大きな赤いかにを背負っている。

もう、このイメージを想像しただけで十分怖いのだが、翌朝、そのかにを料理してみると中身はスカスカであり、肉も何にも入っていない。どうやらその痩せたかには“老衰”の象徴だったようであり、「たいへんに疲れていて、すこしぼけたようにさえ見られた」おじいさんは、春になってもこたつに入ったままだった、というまさかのバッドエンドは、もう胸くそ悪いったらありゃしない。

これに対し、幸田露伴の「観画談」は、名人による講談を聴いているような気分にさせてくれる快作であり、日本語の文章がこんなにもリズミカルになるものかと唯々感心。正直、ロックにしてもラップにしても、アップテンポのリズムは日本語に向いていないと思っていたのだが、もし、露伴が現代に蘇ったら(スタンド使いの漫画家ではなく)ノリノリの日本語ラッパーになっていたかもしれないね。

ということで、小川未明幸田露伴の作品は青空文庫でも読めるのだが、作品数が多いためどこから手を付ければ良いのか分からないのが困りもの。しかし、今後の長~い老後を考えると青空文庫は無料で楽しめる貴重なヒマ潰しの宝庫であり、今のうちからKindleを使って少しずつ慣れるようにしておこうと思います。