中上健次全集6

長編の「地の果て 至上の時」を収録。

この作品は、作者の代表作である「枯木灘」の続編に位置づけられる内容であり、前作の最後で異母弟を撲殺してしまった主人公の秋幸が3年の刑期を終えて故郷である熊野の地に戻ってくるところから始まる。したがって、(少なくとも前半くらいは)殺人という罪を犯してしまった主人公の悔恨みたいなものがテーマになるのかと思ったが、予想に反して(少なくとも表面的には)そのような苦悩はほとんど描かれていない。

それでは何が描かれているかというとこれがなかなか難しい問題であり、正直、一口で説明できるような明確なテーマは見当たらないといって良い。その最大の原因は主人公とその不倶戴天の仇であった実父の浜村龍造との“関係修復”にあり、3年ぶりに故郷に舞い戻った主人公は自ら望んで龍造の経営する木材会社で働くことになる。

まあ、その背景には、主人公のアイデンティティの拠り所であった“路地”の消滅とそれに伴う母方と父方との対立構造の変化という特殊事情があるのだが、それにしてもこの“関係修復”はあまりにも唐突であり、なかなか主人公の気持ちを理解することができない。また、母方から父方へと陣営が移動することによって主要登場人物にも大きな異動があるのだが、残念ながら新メンバーの中に魅力的なキャラは見当たらず、正直、読み進めるのが次第に辛くなってくる。

さらに問題なのはその文体であり、少々作者の“独りよがり”感の強い文章表現は、正直、読んでいてとても分かりづらい。これは前回「枯木灘」等の作品を読んだときにはほとんど気にならなかった問題であり、その後、「地の果て 至上の時」を発表するまでの6年間において一体作者にどのような心境の変化(?)があったのだろうか。

ということで、読み終えるまでに予想外の時間を要してしまったが、正直、読後感は微妙なところであり、ラストにおける龍造の縊死が意味するところもまだ十分理解することができずにいる(=いろいろな説明が可能だが、そのどれが“正解”なのかを判断するヒントが決定的に不足していると思う。)。また、ほとんどヤクザ化してしまった主人公にこれ以上感情移入することは困難であり、ひとまず秋幸サーガとのお付き合いはこれまでにしておこうと思います。