土の記

高村薫が2016年に発表した長編小説。野間文芸賞、大佛次郎賞そして毎日芸術賞を受賞している。野間文芸賞というのは純文学作品を対象にしており、その受賞は著者の純文学転向にお墨付きを与えたことになるらしいのだが、正直、とっつきにくいのは最初の十数…

 敦煌

井上靖が1959 年に発表した長編作品。彼の“西域小説”の代表作らしい。“リタイアしてから読む作家”シリーズの第4弾ということになるのだが、意外にテーマが多彩であり、どこから手を付けて良いのか分からない。山歩きからの繋がりで「氷壁」にしようかとも思…

 社会契約論/ジュネーヴ草稿

ジャン=ジャック・ルソーが1762年に発表した政治哲学の古典。その原型である「ジュネーヴ草稿」も併録されている。「人間不平等起源論」に引き続き光文社古典新訳文庫で読んでみたのだが、ボリューム的には社会契約論が約300ページでジュネーヴ草稿の方は150…

 動物農場

ジョージ・オーウェルが「1984年」の4年前に発表したもう一冊のディストピア小説。動物が主役の寓話として創作されたストーリーは比較的単純であり、人間の農場主に搾取されていることに気づいた動物たちが革命を起こして人間を追い出すことに成功するが、…

 戦時期日本の精神史

鶴見俊輔が1979年にカナダのマッギル大学で行った講義用のノートを書籍化したもの。副題に「1931−1945年」とあるとおり、著者は第二次世界大戦の始まりを1931年に起きた中日戦争と考え、それと太平洋戦争とをひと続きのものとして捉える“15年戦争”の立場に立…

 松本清張全集1

長編2編(「点と線」、「時間の習俗」)と短編集(「影の車」)を収録。“リタイアしてから読む作家”シリーズの第3弾ということになるのだが、松本清張に関してはノンフィクション作品も含めてじっくり腰を据えて読んでみたいので、いろいろ迷わずに済む全…

 人間の測りまちがい −差別の科学史−

米国の古生物学者であるスティーヴン・J.グールドが1981年に発表した著作。これまで読んだことはないが、科学エッセイストとしても有名なグールドの本ということでもうちょっと軽めの文章を予想していたのだが、内容はいたって真面目であり、特に知能を具象…

 楢山節考

深沢七郎が42歳のときに中央公論新人賞に応募した彼の処女作。映画化等でも話題になったことのある名作ということで、前々からいつか読んでみようと思っていた作品。“〜考”という重厚そうなタイトルから勝手に長編というイメージを抱いていたのだが、実際は…

 動物のことば

オランダの高名な動物行動学者であるティンベルヘン(=英語読みではティンバーゲン)が1953年に発表した著作。「動物の社会的行動」というサブタイトルからも分かるとおり、本書は、動物の行う様々な社会行動(=求愛から交尾に至る一連の配偶行動、抱卵や…

 クーデタ

池澤夏樹が選んだ「現代世界の十大小説」の3冊目。この前の「苦海浄土」がかなり重たい内容だったので、今回はさらっと軽く済ませるつもりでジョン・アップダイクが1978年に発表したこの小説を選択。著者は俺も2、3冊読んだことのある世界的ベストセラー…

 ボヴァリー夫人

1856年にフランスで発表されたギュスターヴ・フローベールの代表作。サマセット・モームの「世界の十大小説」にも選ばれた古典的名作ということで、いつかは読んでみようと思っていた作品なのだが、たまたま入手したのが岩波文庫の1960年改訳版ということで…

 ワイマール文化

“ナチスの前史”として否定的に捉えられてきたヴァイマル(=本書での表記は「ワイマール」)文化の評価を覆したと言われるピーター・ゲイの名著。1968年に発表されたこの作品で彼が目指したのは「ワイマールの狂乱の歴史を支配した主旋律を拾い集め、それら…

 人間不平等起源論

ジャン=ジャック・ルソーが1754年に発表した政治哲学の古典。今から260年以上前に書かれた作品であり、“何で今さら”という気持ちも強かったのだが、同じ著者の「社会契約論」と共に“フランス革命の思想的基盤になった”というなら、まあ、一度くらい読んでみ…

 苦海浄土

水俣病患者の苦難と闘争を描いた石牟礼道子の代表作。正直、内容が内容だけに娯楽として読むのは困難であり、長らく見て見ぬふりをしてきた作品なのだが、池澤夏樹が“現代世界の十大小説”の一つに本書を選んでいることを知って万事休す。ここが年貢の納め時…

 中世の秋

オランダの歴史家ヨハン・ホイジンガが1919年に発表した古典的名著。冒頭で「この書物は、十四、五世紀を、ルネサンスの告知とはみず、中世の終末とみようとする試みである」と著者自らが述べているとおり、本書は初期フランドル派の画家ヤン・ファン・アイ…

 チーズとうじ虫

カルロ・ギンズブルグというイタリアの歴史学者の著作。「16世紀の一粉挽屋の世界像」という副題からも分かるとおり、本書で試みられているのは16世紀のイタリアで暮らしていたメノッキオという粉挽屋の抱いていた世界像の再現であり、それによって当時の(…

 予告された殺人の記録/十二の遍歴の物語

ガブリエル・ガルシア=マルケスの二冊目。最初は別々に出版された100ページ程の中編小説と12編の短編集とから成る本であるが、もちろんお目当ては著者が最高傑作と自認する前者の方であり、殺人事件の被害者であるサンティアゴ・ナサールの友人だった“わた…

 『新約聖書』の誕生

加藤隆という聖書学者の書いた新約聖書の成立ちに関する本。「新約聖書はキリスト教にとって、この上もなく重要な文書集である。しかし新約聖書が現在のものに見合うような形でほぼ成立したのは紀元四世紀のこと」であり、つまりそれまでの約300年間、「キリ…

 ヴィルヘルム・テル

ドイツの文豪フリードリヒ・フォン・シラーが1804年に発表した戯曲。我が子の頭上に置かれたリンゴを射落とした逸話で知られる弓の名手ウィリアム・テルのお話しであり、正直、子供向けのおとぎ話という認識しか持っていなかったのだが、ときどき読書案内の…

 裁判所の正体 法服を着た役人たち

清水潔の4冊目。ただし、本書はノンフィクション作品ではなく、元裁判官の瀬木比呂志氏との対談をまとめたもの。したがって、他の作品のようなミステリイ的要素は皆無であり、読み物としての面白さという点ではちょっと見劣りするのだが、我が国の司法制度…

 魯迅

竹内好が出征直前の1943年に執筆した彼の処女作。久しぶりに竹内好の文章を読んでみたくなったのだが、困ったことにどの本を読めば良いのか分からない。正直、魯迅に関しては文庫本一冊きりの知識しかない故、内容についていけるかちょっと心配だったのだが…

 カリガリからヒットラーまで

先日拝読させて頂いた「重力の虹」で紹介されていたジークフリート・クラカウアーの著書。著者は、ヴァイマル(=本書での表記は「ワイマール」)共和国時代のドイツにおいて、約10年間にわたり新聞の学芸欄編集員として活躍したという人物であり、彼が1947…

 重力の虹

アメリカ現代文学を代表する小説家の一人であるトマス・ピンチョンの代表作。以前から気になっていた作品の一つなのだが、先日拝読させて頂いた「一九八四年」の解説で久しぶりに彼の名前を目にしたのを機に挑戦を決意。一筋縄ではいかないことで有名な作品…

 国家神道

宗教学者の村上重良が書いた国家神道に関する“古典的名著”。まあ、発表されてから50年近く経っているため、内容に関してはその後いろんな批判も出て来ているようであるが、日本共産党の出身者(=後に除名された。)らしい小気味よい批判精神に貫かれた筆致…

 一九八四年

ジョージ・オーウェルが1949年に発表したディストピア小説の傑作。世界各地で反自由主義的な政権が誕生する度に話題になる作品であり、現在は米国のトランプ政権のおかげで何度目かのブーム到来。あまりにも有名な作品の故、読まずとも大まかなストーリーく…

 社会的共通資本

3年前に惜しまれつつこの世を去った宇沢弘文の入門書(?)。経済学や経営学の類いは、正直、あまり性に合わないのだが、本書は、フリードマン等に代表される新自由主義を「新古典派経済学をもっと極端に反社会的、非倫理的な形にした…反ケインズ経済学」と…

 百年の孤独

コロンビア出身の小説家ガブリエル・ガルシア=マルケスの代表作。俺が学生だった頃に“歴史的大傑作”として各方面で取り沙汰されていた作品であり、地方の一SFファンが手を出すのにはちょっと敷居が高すぎるような雰囲気が無きにしも非ず。本の値段が高かっ…

 神学・政治論

ユダヤ人共同体から“破門”されてしまったスピノザが生前に匿名で発表した作品。本当なら教科書にも載っている「エチカ」の方を読むべきなんだろうが、ちょっと難しそうなのでその事前学習を兼ねて本書を選択。評判の良い光文社古典新訳文庫版で読んでみたの…

 マシアス・ギリの失脚

池澤夏樹が1993年に発表した第29回谷崎潤一郎賞受賞作。誰か今まで読んだことのない作家の本でも読んでみようかと思っていたときに目に止まったのがこの作品。著者の池澤夏樹は“現代世界の十大小説”を選んだり、世界・日本文学全集の編集を手掛けたりと活躍…

 「南京事件」を調査せよ

清水潔のノンフィクション作品を読むのもこれが3冊目。前2作とは異なり、今回はすでに“歴史”の範疇に入っている事件を取り扱っているのだが、著者の語り口はこれまでと同様であり、読者はまるで彼の地道な取材活動に同行でもしているかのような錯覚にとら…