昭和史発掘6

松本清張のノンフィクション作品「昭和史発掘」の続き。この巻に収められているのは、昭和8年から10年の間に起きた出来事をテーマにした「京都大学の墓碑銘」、「天皇機関説」、「陸軍士官学校事件」の3編であり、いずれも全集には未収録。最初の「京都大…

昭和史発掘4・5

1964年から1971年にかけて「週刊文春」に連載された松本清張のノンフィクション作品。「松本清張全集32」収録の「昭和史発掘」から“割愛”されてしまった長編「二・二六事件」を読むために、近くの図書館から単行本の方を借用。全13巻のうち「二・二六事件」…

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ

ジョン・ル・カレが1974年に発表したスパイ小説の傑作。以前、DVDで拝見した「裏切りのサーカス(2011年)」の原作であり、映画ではよく理解できなかった点を確認するためにいつか読んでみようと思っていたのだが、それからはや6年。映画のストーリーは“複…

松本清張全集32

「昭和史発掘」と「身辺的昭和史」という2編のノンフィクション作品を収録。前回、全集の第3巻を読んだ時点で早くも“全巻読破”の目標に黄色信号が点灯してしまったのだが、まあ、推理モノにはちょっと飽きが来たところだったので別のジャンルの作品をつま…

伝奇集

アルゼンチン出身の小説家ホルヘ・ルイス・ボルヘスが1944年に発表した短編集。実際には「八岐の園」と「工匠集」という二冊の短編集を併せたものであり、全部で17の作品が収められている。とても著名な本であり、(往年の?)SFファンとしてはもっと早い時…

市民主義の立場から

1991年に出版された久野収の評論・エッセイ集。「思想のドラマトゥルギー」を読んで以降、何か久野収の著作を読んでみたいと思っていたのだが、例によってどの本から手を付ければ良いのか皆目見当がつかない。Wikipediaによると「いわゆる『主著』と呼ばれる…

君主論

ニコロ・マキアヴェリが1513年に執筆した政治学の古典。あまりにも有名すぎる故、かえって読むのを躊躇っていた本なのだが、以前読んだ「社会契約論」の中でルソーが「マキアヴェッリは国王に教訓を与えるふりをしながら、人民に大切な教訓を与えたのである…

虹の鳥

沖縄県出身の小説家である目取真俊が2006年に発表した長編小説。多くの反対や疑問の声が上がっているにもかかわらず、相変わらず土砂の投入が続いている辺野古の新基地建設問題。本来、沖縄県民を米軍基地の“脅威”から守るべき日本政府が、新基地建設に反対…

谷中村滅亡史

明治40年8月に刊行され(即日発禁にされ)た荒畑寒村20歳の処女作。先月、妻と一緒に渡良瀬遊水地を訪れたとき、“郷土の偉人”田中正造のことをもっと勉強しなければと思ったのだが、とりあえず本書がその一冊目。明治38年の第二次東北伝道行商(=赤くペン…

黒船前夜

“ロシア・アイヌ・日本の三国志”という副題の付けられた渡辺京二の著作。明治維新の勉強をしているときに興味を惹かれた本の一冊に「逝きし世の面影」という作品があり、本当はそちらを読んでみるつもりだったのだが、ちょっとした気の迷い(?)で本書の方…

怒りの葡萄

ジョン・スタインベックが1939年に発表したアメリカ文学を代表する名作。本書を読んでみようと思ったのは、先日、DVDで拝見した「レディ・バード(2017年)」の影響であり、映画の冒頭、車内でこの本の朗読テープを聴いていた主人公とその母親が号泣するとい…

ヨブ記講演

内村鑑三が1920年4月から12月にかけて行った21回に及ぶ講演の記録。ヨブ記というのは、酷い話の多い旧約聖書の中でも飛び抜けて悲惨かつ不条理なエピソードであり、神とサタンによって「神は物質的恩恵の故に崇むべき者にあらず、神は神御自身の故に崇むべ…

日本近代史

1857年から1937年までの80年間における我が国の政治史を概観した坂野潤治の著作。遠山茂樹の「明治維新」や丸山真男の「『文明論之概略』を読む」を読んだ後の続きをどうしようか悩んでいたときに目に止まったのがこの本であり、明治維新に関してはダブって…

海と毒薬

「九州大学生体解剖事件」を題材にした遠藤周作の小説。この本を読んでみようと思ったのは、先日拝読したリチャード・フラナガンの「奥のほそ道」の中でこの事件が取り上げられていたからなのだが、実際に“生体解剖”が行われたのは敗戦間近の1945年5月のこ…

人間 -この象徴を操るもの

エルンスト・カッシーラーが1944年に発表した“人間文化”の哲学書。本当は同じ著者の「国家の神話」を読みたかったのだが、近くの図書館に置いてなかったので仕方なく本書を先に読んでみることにした。ユダヤ系ドイツ人である著者が亡命先のアメリカで執筆し…

荒涼館

チャールズ・ディケンズが1852年から翌年にかけて発表した長編小説。 最初、寝る前にベッドで横になって読んでいたのだが、活字が小さい(=筑摩書房の世界文学全集で読んだ。)のと出だしのストーリーが面白くないのとで、わずか7ページにも満たない第一章…

 奥のほそ道

オーストラリア人作家のリチャード・フラナガンがブッカー賞を受賞した長編小説。正直、新しい小説は何を読んだら良いのか見当がつかない状況が続いているのだが、本作の高評価を耳にして読んでみることにした。本書の原題である「The Narrow Road to the De…

 白鯨

ハーマン・メルヴィルが1851年に発表したアメリカ文学を代表する傑作。本当はメルヴィルの遺作である「ビリー・バッド」を読んでみたかったのだが、やはりものには順序というものがあるだろうということで、この未読の大作に挑戦。読みにくいことでも有名な…

 西南役伝説

西南の役(1877年)を知る古老たちから聞取りを行った様々なエピソードを題材にした石牟礼道子の短編集。“あとがき”によると、本書を執筆するそもそもの動機は、「地上の形はごらんの通りなので、なぜそうなるのか根の育ち方を知りたかった」からであり、そ…

 国家に抗する社会

ピエール・クラストルというフランス人の人類学者が1974年に発表した政治人類学の本。先日拝読させて頂いた「『文明論之概略』を読む」の最後のところで、丸山真男は「主権国家を主要単位とする世界秩序原理」は決定的な破綻の様相を呈していると指摘してい…

 松本清張全集3

「ゼロの焦点」と「Dの複合」という2編の長編を収録。「ゼロの焦点」は、これまで映画やTVドラマで何度となく映像化されてきた著者の代表作の一つなので題名くらいは知っていたが、おそらく真面目に鑑賞したことは一度もないハズ。見合い結婚後、半月もし…

 霧が晴れた時

恐怖小説の名手としても知られる小松左京の“自選”による恐怖小説集。全部で15編の短編小説が収められているのだが、傑作として名高い「くだんのはは」と「保護鳥」は他のアンソロジーか何かで読んだ記憶があるので、今回初めて読んだのは残りの13編。山歩き…

 「文明論之概略」を読む

丸山真男による福沢諭吉の「文明論之概略」の注釈書。竹内好による脱亜入欧論批判の影響もあって、福沢諭吉に対してはあまり良い印象を抱いていなかったのだが、その一方で丸山の“福沢惚れ”も有名であり、この本も、まあ、いつかは読んでみなければと思って…

 方丈記私記

堀田善衛が1971年に発表した「方丈記」の注釈本(?)。著者に言わせると「私が以下に語ろうとしていることは、実を言えば、われわれの古典のひとつである鴨長明『方丈記』の鑑賞でも、また、解釈でもない。それは、私の、経験なのだ」とのことであり、要す…

 明治維新

講座派の歴史学者である遠山茂樹が1951年に発表した明治維新史。ルフェーヴルの「1789年−フランス革命序論」がとても面白かったので、その明治維新版を読んでみようと思ったのが発端なのだが、日頃の勉強不足が祟って“明治維新史の決定版”がどの本なのか分か…

 騙されてたまるか −調査報道の裏側

清水潔の5冊目。「1 騙されてたまるか—強殺犯ブラジル追跡」から「12 命すら奪った発表報道—太平洋戦争」まで12の章に分かれているのだが、力点の置かれている「2 歪められた真実—桶川ストーカー殺人事件」と「4 おかしいものは、おかしい—冤罪・足利事…

 1789年−フランス革命序論

1939年に刊行されたジョルジュ・ルフェーヴルの古典的名著。高橋幸八郎の序文によると、本書は「フランス革命150周年記念にあたって、1789年革命の経過、その構造と精神およびその世界史的意義をフランス国民大衆のために平易かつ明快に、具体的に生々と叙述…

 松本清張全集2

長編1編(「眼の壁」)と短編集(「絢爛たる流離」)を収録。「眼の壁」は、いわゆる籠脱け詐欺によって3千万円の手形をだまし取られた電気メーカーの会計課長が責任を感じて自殺してしまい、その無念を晴らすために彼の部下であった主人公が犯人探しに奔…

 落日燃ゆ

東京裁判でただ一人文官として絞首刑になった広田弘毅の生涯を描いた城山三郎の小説。正直、広田に関しては戦時中に総理大臣を務めたこと以外ほとんど予備知識はなかったのだが、本書によると福岡県在住の貧しい石工の息子として生まれ、大アジア主義を標榜…

 監獄の誕生 ―監視と処罰―

ミシェル・フーコーが1975年に発表した彼の代表作の一つ。翻訳を担当した田村俶氏によると、原著の正式なタイトルは『監視すること、および処罰すること』であり、『監獄の誕生』というのは副題に過ぎないらしいのだが、そんな本書の目標は「近代精神と新し…