「南京事件」を調査せよ

清水潔のノンフィクション作品を読むのもこれが3冊目。

前2作とは異なり、今回はすでに“歴史”の範疇に入っている事件を取り扱っているのだが、著者の語り口はこれまでと同様であり、読者はまるで彼の地道な取材活動に同行でもしているかのような錯覚にとらわれながら一歩一歩事件の核心へ近付いていく。

南京事件に関しては(それこそピンからキリまで)数多くの文献が存在するのだが、今回、彼が目を付けたのは実際にその事件の現場に立ち会った兵士たちの残した従軍日記。まあ、それだけでも立派な一次資料になるのだろうが、さらにその内容を他の記録や証言と照合することによって客観性を高めていくといういつもの彼の手法に変わりはない。

正直、南京事件を巡る歴史修正主義的な動きに関しては、以前、ネット等で調べてみた経験があるので、本書に書かれている内容に驚くようなことは無いのだが、唯一、サンケイ新聞をはじめとする歴史修正主義者たちに対する取材が行われていないことが大変残念であり、彼等が南京事件を否定あるいは矮小化しようとする心理的背景を暴いて欲しかった。

ということで、著者は自身と日本の行った戦争犯罪との関わりについて、日清日露戦争に従軍した祖父の存在を通して考えようとするのだが、おそらくそれが可能なのは一部の国民だけ。俺自身は単純に、日本の伝統に愛着を覚えるのであれば、同時にその暗部も引き受けざるを得ないと考えています。