1987年
監督 原一男 出演 奥崎謙三、奥崎シズミ
(あらすじ)
1982年。ニューギニアからの帰還兵である奥崎謙三は、かつて自らが所属していた独立工兵隊第36連隊のうち、古清水大尉が隊長を務めるウェワク残留隊で部下射殺事件があったことを知る。カメラは、事件の真相究明に立ち上がった奥崎が、殺害された二人の兵士の遺族とともに関係した元隊員たちの自宅を訪ねて回る様子を克明に記録していくが、年老いた元隊員たちの口は重く、なかなか真実を語ろうとはしない…
“神軍平等兵”を自称していた奥崎謙三の活動を記録したドキュメンタリー映画。
本作の噂はかねてから聞いていたのだが、正直、ゲテモノ趣味(?)は希薄の故、なかなか見てやろうという気になれずにいた。前にも書いたが、ネット配信というのはそういった作品の視聴には正にうってつけのシステムであり、おそらくU-NEXTのラインナップに本作が上がっていなかったら一生見ることはなかったかもしれない。
さて、この奥崎謙三という人物は“アナーキスト”として紹介されることが多いようであるが、それは哲学や経済学的な意味においてではなく、単に“無法者”という意味で使用されているに過ぎない。本人の弁によれば、1956年に傷害致死罪で収監された際に“今の苦境は戦争という犯罪行為に起因する天罰である”という神の啓示を受けたそうであり、出所後、戦争責任の自覚を促すために昭和天皇パチンコ狙撃事件等々を引き起こしたとのこと。
したがって、本作で描かれている真相究明活動も、彼にとっては、元兵士たちに対して“戦争責任の自覚を促す”ための行動の一環であり、まあ、そのこと自体は理解できなくもない。しかし、問題はその強引な手法であり、いきなり他人の家に押し掛けていって質問に答えない場合には暴力をも辞さないという行為は明らかにやり過ぎ。
確かに、彼の尋問によって元隊員の口からウェワク残留隊における人肉食の実態が語られるシーンは迫力十分だが、そのこと自体は既に多くの歴史書等において明らかにされているところであり、学問的な意義はあまりない。また、奥崎と元隊員たちとの対立が弱者同士の揉め事みたいに見えてしまうのが何とも哀しいところであり、もっと大物をターゲットにすべきだったのではなかろうか。
ということで、勿論、本作のテーマは奥崎の信仰や政治信条などではなく、彼という人間の生態を興味深く観察していれば良いのだろうが、残念ながらその狡猾そうなキャラクターに対する嫌悪感が先に立ってしまい、冷静に見ていられないのが困りもの。まあ、それもドキュメンタリー映画の狙いの一つなのかもしれないのですが。