オランダの高名な動物行動学者であるティンベルヘン(=英語読みではティンバーゲン)が1953年に発表した著作。
「動物の社会的行動」というサブタイトルからも分かるとおり、本書は、動物の行う様々な社会行動(=求愛から交尾に至る一連の配偶行動、抱卵や給餌といった家族生活とそれを超えた群れ生活、なわばりや雌を独占するための闘争等)の考察を通してその社会構造を明らかにし、さらにはそうした社会組織がどのように発展してきたのかを見出そうとするものであり、そうすることによって「『社会行動』という現象についての、新しい、本当の意味での生物学的な研究法を述べるため」に書かれたものらしい。
したがって、第4章まではセグロカモメやイトヨ、ハイイロジャノメチョウといった様々な動物が示す奇妙な求愛行動、威嚇行動等の事例が紹介されているのだが、その多くは似たようなものを(さらには、もっと奇抜なものまで)TV等で見掛けたことがあるので、正直、あまり驚きはない。
俄然、面白くなってくるのは「第5章 社会的協同の解析」以降であり、人間の行動が、例えば“赤ん坊にミルクを飲ませないと死んでしまうから”といった「先見」や「洞察」に基づいているのに対し、動物の場合は「内的および外的刺激に対する直接の反応」の積み重ねに過ぎず、雛が大口を開けなければ親鳥は我が子に餌を与えることも出来ない。
一番面白かったのは複数の衝動が競合するときに見られる「転位活動」に関する説明であり、攻撃と逃避という二つの衝動が同時に刺激されると動物はその吐け口を探して奇妙な威嚇行動に及ぶ。また、イトヨの雄が行うジグザグ・ダンスは攻撃衝動と性衝動との葛藤であり、その気になった雌からOKサインをもらうことにより、ようやく後者が前者に打ち克って授精に至るというシステムは、読んでいて何だかとても微笑ましかった。
ということで、最後の「第9章 動物社会学研究へのヒント」には、これから動物行動学を学ぼうとする初心者に向けた懇切丁寧なアドバイスが記されており、著者の誠実そうな人柄が偲ばれる。我が国には、動物の社会的行動の“解釈”をすぐに人間に当てはめようとする似非動物行動学者が多いような気もするが、本書からはそんな不埒な気配は微塵も感じられませんでした。