百年の孤独

コロンビア出身の小説家ガブリエル・ガルシア=マルケスの代表作。

俺が学生だった頃に“歴史的大傑作”として各方面で取り沙汰されていた作品であり、地方の一SFファンが手を出すのにはちょっと敷居が高すぎるような雰囲気が無きにしも非ず。本の値段が高かったこともあり、いつか読んでみようと思いつつ今日に至ってしまった訳であるが、つい先日ファンになったばかりの池澤夏樹が本作を“現代世界の十大小説”に選出していることを知り、永年の懸案に決着を付けることにした。

さて、ストーリーは、コロンビアにあるマコンドという架空の町を舞台にしたブエンディア一家の盛衰記であり、その町の建設者でもある初代のホセ・アルカディオ・ブエンディアから数えて実に6世代100年の間に起こった奇妙なエピソードの数々が饒舌な描写によってエネルギッシュに綴られていく。

内容はホラ話みたいなエピソードの連続なのだが、緩急自在な独特のストーリーテリングの巧みさは一級品であり、謎のジプシー老人の遺した怪文書の解読に長年取り組んでいたブエンディア家最後の生き残りが、それがブエンディア家滅亡の預言であったことに気付いた瞬間、マコンドの町もろとも破滅に巻き込まれていくというラストは身震いするほどに素晴らしい。

また、これだけのボリュームにもかかわらず、教訓めいた話が一切出てこないところも好印象であり、“豚のしっぽ”への恐怖から生まれ故郷を去ることになった初代ホセ・アルカディオに始まるブエンディア家の歴史が、100年間にわたる悪戦苦闘の末、結局“豚のしっぽ”によって潰えてしまうという皮肉なストーリーからは人生の無常以外の何ものも伝わってこない。

一方、そんな奇想天外なストーリーにもかかわらず、保守党と自由党との対立や内戦、アメリカ資本の進出とそれに対抗するストライキの弾圧といった祖国の負の歴史が物語の背景としてきちんと描かれており、単なるホラ話に終わっていないところがマジック・リアリズムの醍醐味。その文学的価値は分からないが、とにかく読んでいてとても面白い作品だった。

ということで、何でもっと早い時期に読んでおかなかったのかという後悔もあるが、それ以上に、この作者の素晴らしい作品群をこれから楽しむことが出来るという喜びで今は一杯。池澤夏樹の“現代世界の十大小説”の続きもあるし、しばらくは小説中心の読書生活になりそうです。