清水潔の4冊目。ただし、本書はノンフィクション作品ではなく、元裁判官の瀬木比呂志氏との対談をまとめたもの。
したがって、他の作品のようなミステリイ的要素は皆無であり、読み物としての面白さという点ではちょっと見劣りするのだが、我が国の司法制度の“実態”を知るという意味ではとても勉強になる作品であり、めったにマスコミ等でも取り上げられることのない裁判官の本音を知ることが出来る。
正直、“検察官と刑事裁判官は同じ穴の狢なんじゃないの”とか、“「統治と支配」の根幹にふれるような事案に関しては最高裁(の後に控える権力中枢)のご意向に逆らえないのでは”といった疑問は、日頃から抱いていたところではあるが、それらを元裁判官の瀬木氏が当然のことのようにあっけらかんと認めてしまうのはちょっと衝撃的。
そして、そういった内部統制を可能にしているのが裁判官の人事権を独占している最高裁事務総局の存在であり、自分たちの意向に沿わない判決を下した裁判官は(その報復として)どこでも好きなところに異動させることが出来る。事実、「大飯原発3、4号機の運転差止め判決を出した樋口英明裁判長は、地裁から外され、家裁に異動」になったらしい。
さらにイヤらしいのは、自分たちに都合の良い判決が出されるように行われる「送り込み人事」であり、本書では2015年の高浜原発保全異議審の仮処分取消決定の例が紹介されているが、今年3月の大阪高裁による仮処分取消決定も似たようなものなんだろう。本来、独立であるべき裁判官を企業の支店長の如く扱うことは大きな間違いと言わざるを得ない。
ちなみに両者の対談で面白かったのは、「死刑判決を下す人は神に近い人であってくれなきゃ困る」という清水の願い(?)に取り合おうとしなかった瀬木氏が、「権力が認めたときだけ報道する」という我が国のジャーナリズムの実態を知って愕然とするところ。お互いに相手のフィールドに対しては儚い幻想を抱いていたんだね。
ということで、一番驚いたのは「名誉毀損訴訟についてはこれから賠償金額を高額化する」という最高裁事務総局の新方針であり、これでは我々貧乏人は政治家を含む金持ちの有名人の批判さえ出来なくなってしまいそう。結局、最初から最後まで一縷の望みさえ見出せないような対談でした。