林達夫評論集

昔から気にはなっていたものの、林達夫の著作を読むのは今回が初めて。

評論集ということで、長短合わせて十数編の文章が収められているのだが、冒頭の「父と息子との対話」における新作落語のようなくだけた語り口に、まず意表をつかれる。それに続くのは、庭造りと鶏を飼う話であり、違和感(?)は益々大きくなるばかりであるが、まあ、文章自体は面白いので途中で投げ出すような心配は無い。

その後、話題は時事問題へと移っていき、戦中・戦後に発表された「歴史の暮方」、「反語的精神」を経て、「『タイス』の饗宴」が登場すると、もう、ここから先は著者の本領発揮ということで、彼の“思考”の奔放さ、スマートさに只々驚くばかり。個人的には「三つの指輪の話」が最も興味深く、「精神史」はちょっと手に余る、という感じだった。

ということで、林達夫の面白さは期待どおりであり、本当に頭の良い人というのは、こういう人のことを言うのだろう。彼の別の著作も是非読んでみようと思います。