2010年作品
監督 ロマン・ポランスキー 出演 ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン
(あらすじ)
ロンドンでゴーストライターを生業としているある男(ユアン・マクレガー)のもとへ、英国の元首相アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の自伝代筆という大仕事が転がり込んでくる。彼は、ラングが滞在するアメリカ東海岸の孤島に赴き、酒に酔ってフェリーから転落死したという前任者マイク・マカラの仕事を引き継ぐことになるが、偶然、そこでマカラの残した秘密資料を見つけてしまう….
ロマン・ポランスキー監督による政治スリラー。
元英国首相のアダム・ラングは、アメリカの引き起こしたイラク戦争に積極的に協力した人物であり、今は、テロ容疑者に対する不当な拷問の廉でハーグ国際刑事裁判所に告発されているという設定。逮捕の恐れがあるためにイギリスに帰国する訳にもいかず、ホワイトハウスに庇護を求める様子がとても惨めっぽい。
前任者のマカラは、そんなラングの経歴に関して何らかの隠された真実を探り当てていたようであり、本作のストーリーは、マカラの生前の行動を主人公がなぞるような形で進んで行く。探偵役がしがないゴーストライターということで、派手なアクションやカーチェイスは全く登場しないのだが、ピンと張り詰めた緊迫感は見る者に十分伝わってくる。
まあ、後から考えれば、マカラの秘密資料やカーナビのデータ、海岸付近に住む老人の証言等、天下のCIAが関与しているにしては手掛かりが見つけ易すぎるような気がするし、ラストの謎解きもちょっと子供っぽいのだが、とてもテンポの良い演出のせいで、少なくとも見ている間はこういったアラもほとんど気にならない。
全体的に陰鬱なムードが漂っており、ポール・グリーングラスの作品のように目まぐるしさを感じたり、鑑賞後に疲労感を覚えるといったこともないのだが、最初から最後まで緊張感を途切れさせない脚本演出は素晴らしく、公開当時77歳というポランスキーの手腕に衰えは全く見られない。
ということで、娯楽映画ではあるものの、大義なきイラク戦争に関わったことは間違いだったという主張は明確であり、おそらくイギリスではそれが常識になっているのだろう。我が国の小泉元首相(とその後継者)が、何ら悪びれることもなくマスコミに露出し続けているのとは大きな違いです。