1996年
監督 マーク・ハーマン 出演 ピート・ポスルスウェイト 、ユアン・マクレガー
(あらすじ)
1990年頃の英国ヨークシャーにある炭坑町グリムリー。その町の名物は、炭坑夫達で作る歴史あるブラスバンド“グリムリー・コリアリー・バンド”だったが、現在、町は炭坑の閉鎖問題で騒然としており、生活苦から退団を考えるメンバーも出てくる始末。そんな中、リーダーのダニー(ピート・ポスルスウェイト)だけは、ロイヤル・アルバート・ホールで行われる全国大会での優勝を目指して意気込んでいた…
1992年の全英ブラスバンド選手権大会で優勝を果たしたグライムソープ・コリアリー・バンドのエピソードを題材にした英国映画。
ジョン・フォードの「わが谷は緑なりき(1941年)」から比較的新しい「リトル・ダンサー(2000年)」や「パレードへようこそ(2014年)」まで、英国の炭鉱町を描いた映画には優れた作品が少なくないが、その背景になっているのは炭鉱夫という過酷な仕事に従事する男たち(そしてその暮らしを支える女たち)のプライド。
それをズタズタに引き裂いてしまったのがサッチャーによる大規模な炭鉱閉鎖計画(1984年~)であり、まあ、石炭産業の将来性を考慮すればやむを得ない面もあるものの、ポランニーの言うとおり「変化の速度は、変化の方向そのものに劣らず重要であることが多い」訳であり、彼女の強引な手法はやはり「悪魔のひき臼」として厳しく批判されるべきだろう。
さて、結論を先に書いてしまうと、本作の主人公であるダニーが救おうとしたのはそんな人間としてのプライドであり、それは会社から支払われる割増しの退職金なんかでは決して購うことのできない大切なもの。炭鉱の閉鎖決定後にロンドンで行われた全国大会において、見事に彼のバンドは優勝を果たすのだが、そんな彼らが帰りのバスの中で演奏する「威風堂々」の響きはとても感慨深いものであった。
ちなみに、もう一人の主役であるユアン・マクレガーよりずっと印象に残るのは、ダニーの息子であるトロンボーン奏者のフィル。彼は1984年のストライキのときに拵えた多額の借金のせいでいまだに生活苦に喘いでいるのだが、そんな息子にダニーがかける言葉は“壊れたトロンボーンを買い換えろ”なんだよねえ。
ということで、本作でもサッチャーのことを名指しで非難しているのだが、我が国では同じく新自由主義の推進者である中曽根康弘や小泉純一郎を正面から批判した映画が見当たらないのが寂しいところ。例えば、効率を最優先する民営化が引き起こした我が国の商道徳の著しい低下を示すエピソード等は、映画の題材としていろんなところに転がっていると思うんですけどねえ。