血を吸うカメラ

1960年
監督 マイケル・パウエル 出演 カール=ハインツ・ベーム、アンナ・マッセイ
(あらすじ)
映画撮影所でカメラマンの仕事をしている内気な青年マーク(カール=ハインツ・ベーム)の隠された趣味は、女性が殺される瞬間の恐怖の表情をカメラに収めること。夜の町で拾った娼婦を殺害し、その撮影に成功はしたものの、映像の出来は満足のいくものではなく、第二、第三の殺人を重ねていく。一方、そんな彼に優しく声を掛けてくれたのは、彼が父親から譲り受けたアパートの階下に住むヘレン(アンナ・マッセイ)だった…


「赤い靴(1948年)」で有名なマイケル・パウエルの監督によるスリラー映画。

原題は「Peeping Tom」であり、高名な心理学者だったらしいマークの父親が、窃視症の研究のために幼かった頃のマーク少年を実験台に使用していたことが全て不幸の始まり。正直、窃視症と本作の連続殺人との関連は不明だが、そういえば「インビジブル(2000年)」の主人公もかなり凶暴だったし、意外に“のぞき”というのはサディスティックな行為なのかもしれない。

さて、本作の場合、マークが殺人犯であることはかなり早い時期に明らかにされてしまうため、犯人捜し的な要素は皆無であり、それに代わってストーリーの柱の一つになるのが優しいヘレンとの純愛。このように、猟奇的な連続殺人事件とロマンチックな純愛とを並行して描いていくというアイデアはとても良いと思う。

しかし、問題なのは両者の配合割合であり、本作の場合、猟奇的要素が強すぎるためにロマンチックな要素が完全にそれに飲み込まれてしまっており、“いかがわしい”というイメージが全編に漂っている。例えば、冒頭のポルノ写真販売のシーンは、成人男性であれば誰でもニヤリとしてしまう罪のないエピソードであるが、やはり家族連れで見るのにはちょっと抵抗があるだろう。

そんなこともあって、本作はかなりカルト色の強い作品になっているのだが、まあ、そうと割り切ってしまえばなかなか興味深い点も少なくない。謎解き要素の少ない中、“殺害された女性の恐怖の形相が尋常でないのは何故か?”というのが一つのポイントになるのだが、その種明かしは妙に説得力があって面白いし、思わず“マイケル・パウエルって、本当にヘ○タイなんじゃないの?”と思ってしまった。

ということで、相棒だったエメリック・プレスバーガーの影響か、マイケル・パウエルの作品からはいつもドイツ表現主義のかすかな香を嗅ぎ取っていたのだが、単独で撮った本作においてもその傾向は顕著。いっそロマンチック要素を完全に排除してしまえば、「M(1931年)」のような傑作になっていたかもしれません。