パラダイン夫人の恋

1947年作品
監督 アルフレッド・ヒッチコック 出演 グレゴリー・ペックアリダ・ヴァリ
(あらすじ)
盲目の退役将校パラダイン大佐が毒殺されるという事件が発生し、その容疑者として妻のマドレーヌ(アリダ・ヴァリ)が逮捕される。彼女は知合いのサイモン・フレイカー卿に弁護を依頼するが、彼は売っ子の敏腕弁護士アンソニー・キーン(グレゴリー・ペック)を推薦。弁護を引き受けることになったキーンは早速マドレーヌに接見するが、彼女を一目見るなりその神秘的な美しさに魅了されてしまう….


ヒッチコックグレゴリー・ペックを主役に起用した2作目にして最後の作品。

キーンにはゲイ(アン・トッド)という貞淑な奥さんがいるので、彼のマドレーヌへの想いは不倫ということになってしまう。しかも、事件を調べていくうちに、マドレーヌは使用人のラトゥール(ルイ・ジュールダン)と恋愛関係にあったかもしれないという疑惑が浮上してくるため、ストーリーは(俺好みの)ロマンチックな展開からは程遠い、ちょっとドロドロ系の様相を呈してくる。

しかも、作品の後半は法廷劇になることもあってスリラー的な要素はあまり見られず、これがヒッチコックグレゴリー・ペックではなく、ウィリアム・ワイラーローレンス・オリヴィエあたりのコンビで製作されていたら、ある意味、本作よりもずっと怖い映画になっていたかもしれない。

しかし、個人的な趣味から言わせてもらえば、本作のヌルさは決して嫌いではない。確かに、グレゴリー・ペックに対して妻と美貌の依頼人との間で苦悩する男の演技を求めるのは酷かもしれないけれど、キーンが裁判で屈辱的な敗北を喫した後に見せる誠実さはやはり彼ならではのものであり、あの予定調和的なラストシーンが様になる男優もちょっと彼以外には思いつかない。

また、本作がハリウッド映画デビューとなるアリダ・ヴァリの美貌を拝めるのも有難いことであり、あまり観客に好印象を与えるようなキャラでないあたりは少々残念であるが、男に媚びることなく、自分の意志を貫き通すというパラダイン夫人のお姿は、2年後の「第三の男(1949年)」で彼女が演じたあの名ラストシーンを彷彿とさせる。

ということで、共演者の方もなかなか豪華であり、前記以外にも名優チャールズ・ロートンが、キーンの妻であるゲイにフラれたことの意趣返しに、裁判でキーンに不利な取扱いをする判事役という、これまた彼ならではのとんでもないキャラで出演しています。