冬冬の夏休み

1984
監督 ホウ・シャオシェン 出演 ワン・チークアン 、リー・シュジェン
(あらすじ)
台北の小学校を卒業したトントン(ワン・チークアン)は、母親が手術で入院することになったため、幼い妹のティンティン(リー・シュジェン)と一緒に母方の祖父が診療所を営む銅羅の家で夏休みを過ごすことになる。ちょっぴり頼りない叔父に連れてこられた田舎町で、早速、近所の悪ガキたちと仲良くなったトントンだが、彼の後ろを金魚のフンのように付いてくるティンティンの存在が悩みの種…


ホウ・シャオシェン1984年に発表した初期の代表的作品の一つ。

彼の監督作品は出来るだけ見ようと思っており、代表作の「悲情城市(1989年)」もDVDは買ってあるのだが、購入してしまうと安心してなかなか見ないのが困りものであり、実際に鑑賞したのは「恋恋風塵(1987年)」に続いて本作がようやく2作目。しかし、U-NEXTで見たその内容は素晴らしいものであり、うん、やっぱり頑張って見ないといけないなあ。

さて、原作と脚本を担当しているチュー・ティエンウェンがほぼ同年代ということもあって、本作の主人公であるトントン少年の生活環境は片田舎で育った俺の子供時代のそれに共通するところが少なくない。明確にはされていないが、ラジコンのおもちゃが出てくることを考慮すると、おそらく時代設定は1960年台半ばくらいじゃないのかなあ。

舞台になるのは田園風景が広がる田舎町なので、作品の基調は“のんびりムード”なのだが、戦後の殺伐とした雰囲気がまだ残っているところが興味深いところであり、知的障害のある若い女性が行きずりの男に妊娠させられてしまったり、二人組のチンピラによる強盗事件なんかが発生したりする。

まあ、いずれの事件も子どものトントンにとっては“どうでも良い話”なんだろうが、結局、木から落ちて流産してしまった障害のある女性の父親に対し、トントンの祖父が不妊手術を勧めるシーンが印象的であり、自分の死後に娘がひとりぼっちになってしまうことを心配する父親は、誰の子どもでも良いから出産させてやりたいと涙ながらに訴える…。

ということで、俺が生まれたのは日本が高度成長期に入ってからのことであるが、やはり社会には戦後の殺伐とした雰囲気が残っており、決して自分が直接の被害者になった訳ではないが“剥き出しの暴力”の匂いがまだ微かに漂っていた。それが解消され、脳天気な雰囲気が一気に広がっていったのは1970年代後半のことであり、まあ、それ以降に生まれた世代が“南京大虐殺なんて信じられない”なんて言い出すのも(もちろん容認はできないが)全く理解できない訳ではありません。