恋恋風塵

1987年作品
監督 ホウ・シャオシェン 出演 ワン・ジンウェン、シン・シューフェン
(あらすじ)
阿遠(ワン・ジンウェン)と阿雲(シン・シューフェン)は台湾の炭鉱の村で育った幼なじみ同士。年上の阿遠は、中学卒業後、貧しい家計を助けるために村を出て台北で働くことになるが、その翌年、阿雲も彼の後を追うようにして台北に出てくる。お互いの存在を心の支えにして慣れない都会暮らしに耐えてきた二人だったが、そんなある日、阿遠が兵役につくことになってしまう….


ようやく見ることが出来たホウ・シャオシェン侯孝賢)の代表作の一つ。

60年代終わりの台湾が舞台なのだが、同じアジア人同士ということもあってノスタルジックな雰囲気が満載。シーンの切替えの際、直接ストーリーに関係の無いワンショットを挿入する等、小津作品を彷彿とさせるような手法が見られることもあって、それとの関連性が取り沙汰されているようであるが、作品のテーマになっているのは“時の無常さ”ではなくて“女心の無情さ”(?)であり、見終わった後の印象は極めて新鮮であった。

まあ、ストーリー自体は感動ものとは縁遠い“よくある話”であり、登場人物たちの貧しい暮らしぶりも決して見ていて楽しいものばかりではないのだが、それにもかかわらず、作品全体から伝わってくる“美しさ”のイメージは圧倒的であり、正直、こんなに美しい映画を見たのは本当に久しぶりのこと。

おそらく、その“美しさ”の大部分を占めているのは、“素朴さ”とか“瑞々しさ”といったプリミティブな感覚であり、監督のホウ・シャオシェンはそれを意図的に仕掛けているのだろうが、観客に対して決してその仕掛けを意識させないあたりは実に見事であり、俺のような老人でも素直に本作を楽しむことが出来た。

また、ヒロインの阿雲を演じているシン・シューフェンという女優さんの存在も本作の“美しさ”に大きく貢献しているところであり、その可憐な演技は最近ではめったにお目にかかることの出来ないレベル。決して飛び抜けた美人ではないのだが、甘酸っぱい記憶の底に残る“幼なじみ”役としては正に絶妙のキャスティングであった。

ということで、初めて拝見させて頂いたホウ・シャオシェンの作品は評判どおりの素晴らしさ。こうなったら、代表作の「悲情城市(1989年)」をはじめとする他の旧作も是非見てみたいところであり、財布の中身と相談しながら対策を検討したいと思います。