バリー・リンドン

1975年作品
監督 スタンリー・キューブリック 出演 ライアン・オニール、マリサ・ベレンソン
(あらすじ)
18世紀半ばのアイルランド。幼い頃に父親を失ったレドモンド・バリー(ライアン・オニール)は、初恋の相手である従姉ノラの婚約者で資産家のイングランド将校に決闘を申し込み、彼を射殺してしまう。彼女の兄弟の勧めで、警察から逃れるために村を出ることになったレドモンドは、旅の途中、追いはぎに合って一文無しになってしまい、止むを得ずイングランド軍に志願して大陸へ渡ることになる….


鬼才スタンリー・キューブリックサッカレーの小説を映画化した作品。

原作は、いわゆるピカレスク・ロマンというジャンルに属する小説らしく、イングランド軍に入隊した主人公は、数奇な運命に翻弄された末、遂には貴族の妻を娶るまでになるのだが、その後も彼の波乱の人生に真の安らぎが訪れることはなく、結局、生粋の貴族である義理の息子ブリンドン卿との決闘に敗れて惨めな末路を辿ることになる。

まあ、彼の長所としては、女性にモテること、腕っ節が強いこと、思い切りが良いこと、そして(意外に)義理堅いこと等が挙げられるのだが、だからといって偉人という訳では全く無く、どちらかといえば我々と同じ凡人に属する人物。サッカレーの原作には、そんな俗物が貴族にまで成り上がろうとすることを非難する趣旨があったのかもしれない。

しかし、ブリンドン卿を決闘の恐怖から思わず嘔吐してしまうような人物として描いていることからも明らかなとおり、このキューブリックの作品からは原作のそのような意図は全く読み取れないばかりか、およそ教訓めいたメッセージを探し出すこと自体がほとんど不可能。ただただ、数奇な運命に弄ばれた凡人の悲喜劇を黙って見ているというのが本作の正しい鑑賞態度であり、事実、それだけで十分に面白い。

そして、そんなストーリーの面白さに加えて本作の魅力を一層高めているのが、アカデミー賞をはじめとする主要映画各賞で撮影賞を独占したというその映像の美しさであり、本作が今から35年以上前に制作されたというのが信じられないくらいの素晴らしさ。おそらく、そういった方面でも後の作品に大きな影響を与えたのだろうと思う。

ということで、3時間を超える上演時間も、今から考えるととても贅沢であり、同じ脚本を今のハリウッドで映画化したら2時間足らずの作品にトリミングされてしまうのはまず間違いないところ。今となっては、こういったゆったりとした時間の流れを感じられる作品というのは、とても貴重だと思います。