加藤周一著作集15「上野毛雑文」

断続的に読んでいる加藤周一著作集の15巻目。

いよいよ著作集の最終巻ということで、ここには著者が雑誌や新聞に連載していたエッセイ風の短い文章がたくさん収録されている。「私の広告文」なる一編には、出版社からの依頼によって書かれたものと思われる新刊書の推薦文までがまとめて掲載されており、著者自身が“後世に残す価値がある”と一応判断したものは全部入っているような印象を受ける。

まあ、そんな訳で、内容は非常に多岐にわたっているのだが、時節柄(?)興味深かったのは60年安保に関する文章であり、当時、多くの国民が意を決しかねていたにもかかわらず、強引に安保条約を可決・承認してしまった岸内閣の横暴さは、昨年の安保関連法案の強行採決時における現政権の態度を容易に想起させる。

しかし、大きく異なるのはそれに対する大手新聞をはじめとするマスコミの対応であり、当時の岸首相を辞職にまで追い込んだという痛烈な批判精神は何処へやら、現政権のアメとムチにすっかり萎縮してしまった現在のマスコミからはそんなパワーは微塵も感じ取れない。本書の最後に収められた「政治について」の表現を借りるならば、ここ数年、我が国の民主主義の程度はかなり低下してしまったと言わざるを得ないだろう。

ということで、これで加藤周一著作集を(一応)読破したことになるのだが、発売当時、全15巻を一括予約すると付いてきたオマケの1冊がまだ残っているし、実はこの著作集、同じ平凡社からその後24巻まで刊行されている。追加された9巻はまだ購入していないものの、今後もしばらくの間は楽しませてもらえそうです。