加藤周一著作集13「小説・詩歌」

断続的に読んでいる加藤周一著作集の13巻目。

題名のとおり、著者の発表した小説や詩等をまとめたものであり、その中で一番ボリュームがあるのが冒頭に収められた小説の「ある晴れた日に」。太平洋戦争末期、反戦思想を持つ青年医師の苦悩を描いた作品であり、まあ、いかにもこの著者らしいというしかない内容なのだが、流麗な文章の助けもあって、あっという間に読めてしまう。

悪役が少々典型的過ぎるのが一番の難点だと思うが、発表されたのが1949年ということで、敗戦前後における様々な人々の気持ちがリアルに描かれているのがなかなか興味深い。以前、坂口安吾の小説を読んだときにも意外に思ったのだが、当時、“負けたら奴隷にされる”と本気で信じ込んでいたのは、無知な大衆ばかりではなかったんだなあ。

ということで、シュヴァイツァー博士の“別の顔”に焦点を当てた「人道の英雄」、オチが素敵な童話の「花の降る夜のなかで」といった作品も面白かったのだが、それなりの教養が要求される「三題噺」には少々付いていくことが出来ず、元々苦手な詩歌に関しても、十分楽しむことが出来なかったのは残念でした。