否定と肯定

2016年
監督 ミック・ジャクソン 出演 レイチェル・ワイズトム・ウィルキンソン
(あらすじ)
1996年、アメリカの大学で教鞭を執っていたユダヤ歴史学者のデボラ・E.リップシュタット(レイチェル・ワイズ)は、自身の著書で非難したホロコースト否認論者のデイヴィッド・アーヴィングから名誉毀損の訴えを起こされる。彼女は裁判で争うことを決意するが、裁判の舞台となるイギリスでは名誉毀損の立証責任が被告側にあるとされているため、裁判に勝利するのは容易なことではなかった…


実際にあった“アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件”を取り扱った裁判劇。

Wikipediaによると、イギリスの名誉毀損法では「中傷的な言論は真実でないと推定される」そうであり、本件の場合、リップシュタットが自身の著書「Denying the Holocaust: the Growing Assault on Truth and Memory」の中でアーヴィングのことを“ホロコースト否認論者、捏造者、偏見の持ち主”と非難していることは間違いないので、裁判ではリップシュタットの方がその「中傷的な非難が相当程度に真実(substantial truth)」であることを証明しなければならないらしい。

まあ、映画の中では、裁判上、アーヴィングの主張が優位に立つのはほんの一瞬だけであり、あとはリップシュタットの依頼を受けた弁護士リチャード・ランプトン(トム・ウィルキンソン)の名調子のおかげもあって、比較的順調にリップシュタットの主張が「相当程度に真実」であることが認められ、めでたしめでたしのラストを迎える。

そのため、映画的にはやや起伏の乏しい平板なストーリーになってしまっているのだが、実際にはこの「相当程度に真実」であることの立証はなかなか難しいようであり、結局、ホロコースト否認論者との示談に応じてしまったり、彼らを非難する文章を著作から削除してしまったりする事例も少なくないらしい。

ということで、我が国でも南京大虐殺のみならず、従軍慰安婦問題や関東大震災朝鮮人虐殺事件等々、歴史修正主義者たちによる恥ずべき活動が後を断たない状況であるが、百人斬り訴訟や最近の従軍慰安婦訴訟のようにたまたま裁判で彼らの主張が虚偽であることが明らかにされた場合でも、あまりマスコミ等で大きく取り上げられないのが現実。本作の製作にBBCが関与していることから、我が国でもNHKの奮起に期待したいところであるが、まあ、歴史修正主義に親和的な現政権に首根っこを押さえつけられている現状では、ちょっと無理でしょう。