ホブスンの婿選び

1954年
監督 デヴィッド・リーン 出演 チャールズ・ロートン、ブレンダ・デ・バンジー
(あらすじ)
3人の娘と一緒に靴屋を営んでいるホブスン(チャールズ・ロートン)は大酒飲みの暴君。娘たちの不平が喧しくなってきた彼は次女アリスと三女ヴィッキーを嫁に出そうと考えるが、持参金を出すのが惜しくてなって計画は頓挫。一方、オールドミスということで婿選びの対象から外れた長女のマギー(ブレンダ・デ・バンジー)は、腕の良い靴職人ウィリー・モソップとの結婚を一人で決めてしまい、家を出て二人で小さな靴屋を始めることに…


名匠デヴィッド・リーンが「旅情(1955年)」の前年に発表した英国映画。

昔から見てみたかった作品の一つであり、新たにU-NEXTのラインアップに加わったことを知って早速拝見。ちなみに、原題である「Hobson's Choice」というのは英国の慣用句に由来するそうであり、意味は「選り好みの許されない選択」ということらしい。

さて、本作の最大の魅力が主演を務めるチャールズ・ロートンのアクの強い演技にあるのは間違いないところであり、傲慢ではあるものの、どこか憎むことのできない愛嬌ある悪役ぶりはまさしく彼の独壇場。彼はこの翌年に問題作「狩人の夜(1955年)」で監督デビューを果たすことになるのだが、もしそれがすんなり成功していたら、本作が彼の映画俳優としての最後の作品になっていたのかもしれない(?)。

そして、そんな名優を向こうに回して大奮闘の演技を見せてくれるのがブレンダ・デ・バンジーであり、彼女が演じている長女マギーは作品の舞台になっている英国ビクトリア朝の因習を一気に飛び越えてしまったスーパーレディ。ウィリーの靴職人としての腕と自分のマネージメントの才能があれば、独立しても十分やっていけると考えた彼女は、単身ウィリーの婚約者の家に乗り込み、見事略奪婚に成功してしまう。

その後も彼女の活躍は留まるところを知らず、遂には世間知らずでバカ真面目なウィリーをモソップ=ホブスン靴店の共同経営者にすることに成功するのだが、正直、終盤は少々やり過ぎの感が無きにしもあらずであり、あの思わずニヤリとしてしまう絶品の新婚初夜シーン(=ここまででその後の展開は十分予想できる。)で終わりにしておけば、一分の隙もない大傑作に仕上がっていたかもしれない。

ということで、デヴィッド・リーンというと「アラビアのロレンス(1962年)」に代表されるような大作のイメージが極めて強いのだが、その一方で本作のような小品においても優れた才能を発揮しているところであり(=ジョージ・スティーヴンスに似ているのかな?)、正直、「旅情(1955年)」の他にもう1、2本こういった佳品を手掛けて欲しかったところです。