超音ジェット機

1952年作品
監督 デヴィッド・リーン 出演 ラルフ・リチャードソン、アン・トッド
(あらすじ)
英国空軍パイロットのトニーは、同僚のスーザン・リッジフィールド(アン・トッド)と結婚するが、彼女の父親である資産家のJR(ラルフ・リチャードソン)は、自らが所有する航空機工場において“音速の壁”を突破する超音ジェット機を開発することに執念を燃やしていた。そんな彼に協力すべく、終戦後、トニーは超音ジェット機のテストパイロットを志願するが….


名匠デヴィッド・リーンが「ホブスンの婿選び(1954年)」の2年前に公開した作品。

いきなりプロペラ機によるアクロバチックな飛行シーンから映画が始まるんだけど、そのパイロットであるフィリップ君は本作の主人公ではなく、次のシーンからは彼の同僚であるトニー君(=ナイジェル・パトリックが演じているんだけど、ちょっと存在感が希薄。)が中心となってストーリーが展開する。

そして、テストパイロットになった彼は、最新式のプロメテウス号に搭乗し、遂に音速の壁に挑戦する訳だが、何と音速に達する寸前で操縦不能に陥ってしまい、地上に激突! あっけなく還らぬ人となってしまう。

その後、最終的にはトニー君の後を引き継いだフィリップ君の手によって音速の壁が破られるっていう結末なんだけど、この事故のあたりから、本作のテーマが“超音ジェット機の開発”そのものではなく、それに執念を燃やすJRと反発するスーザンとの“親娘間の確執”の方であり、したがって、主人公も(クレジットどおり)この二人である、ということが次第に明らかになってくる。

このラルフ・リチャードソン扮するJRという人物は、「戦場にかける橋(1957年)」でアレック・ギネスが演じたニコルスン大佐と同様、信念の人である訳なんだけど、ニコルスン大佐に比べると動機が不純というか、やや個人的に過ぎるあたりが気になるところ。確かに、途中で超音ジェット機の開発を諦めてしまったのでは、トニー君の死が無駄になってしまうのかもしれないが、だからといってフィリップ君の命まで危険に曝すというのも如何なものか。

まあ、ラストではアン・トッド(=デヴィッド・リーンの元妻)扮するスーザンとめでたく和解する訳であるが、それは心優しい彼女がJRの“孤独”を不憫に思ったからであり、決して彼の信念を理解したからでは無いような気がする。

ということで、なんか悪口ばっかりになってしまったが、作品の出来は水準以上であり、特にジェット機の飛行シーンを撮った映像の硬質的な美しさは素晴らしい。なお、Wikipediaによると「1947年10月14日、チャック・イェーガーの操縦するX-1実験機が有人機で初めて音速を超えた公式記録」とのことであり、このエピソードはフィリップ・カウフマンの力作「ライトスタッフ(1983年)」でも印象的に描かれていました。