ホドロフスキーのDUNE

2013年
監督 フランク・パヴィッチ 出演 アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セイドゥー
(あらすじ)
1975年、鬼才として知られるアレハンドロ・ホドロフスキー監督は、プロデューサーのミシェル・セイドゥーと一緒にフランク・ハーバートのSF大河小説「DUNE」の映画化に取り掛かる。ホドロフスキーの熱意に賛同したのは、メビウスダン・オバノンH.R.ギーガーといった当時の新進気鋭のアーティストたちであり、さらにはダリ、オーソン・ウェルズミック・ジャガーといった大物の出演も内定するが…


関係者へのインタビューにより、幻のSF大作「DUNE」の製作過程を明らかにしたドキュメンタリー映画

“意余って力足らず”というのがホドロフスキー監督の代表作である「エル・トポ(1969年)」を見たときの正直な感想だったが、どうやらそれは思い違いではなかったようであり、本作においても彼の壮大な構想力とビジネス感覚の欠如とのギャップに目眩を催しそうになってしまう。というか、おそらくその目眩こそが本作の最大の魅力なんだろう。

さて、一番驚いたのは「DUNE」に関する絵コンテやデザイン画が大量に残されていることであり、ホドロフスキー自身のいまだ熱の冷めやらぬ語り口に乗せて紹介されるそれらの画像は今でもなかなか魅力的。特に、メビウスの手になる絵コンテは最後まで完璧に仕上げられており、SF大作「DUNE」が単なる夢物語ではなかったことを力強く訴えかけている。

正直、「エル・トポ」を見ていなかったら、この作品の映画化にGOサインを出さなかったハリウッドのお偉方の弱腰を非難していたかもしれないが、おそらくホドロフスキーの演出力ではこの作品を、カルトではない、一般大衆向けの作品として完成させることはほぼ100%不可能。加えて、ダン・オバノンの力量も未知数という当時の状況では、ハリウッド側の判断は正しかったとしか言いようがない。

ちなみに、本作で初めてホドロフスキーの素顔に接することができた訳だが、もっと芸術家ぶった鼻持ちならない人物かと思いきや、意外に親しみやすい少年のような目差しにちょっと吃驚。おそらくこの目差しこそがメビウス等の才能を引き寄せた要因の一つであり、一歩間違っていたら新興宗教の教祖にでもなっていたかもしれないね。

ということで、本作には「エル・トポ」にも出ていた監督の息子ブロンティス・ホドロフスキーも出演しているのだが、いたって平凡そうな中年男に成長していた彼が“「DUNE」の映画化が実現していたら、私の人生も変わっていたに違いない”と話すのを聞くのはちょっと辛いなあ。ホドロフスキー監督の無邪気さの最大の犠牲者は彼だったのかもしれません。