1974年
監督 ビリー・ワイルダー 出演 ジャック・レモン 、ウォルター・マッソー
(あらすじ)
シカゴにあるエグザミナー紙の敏腕記者であるヒルディ(ジャック・レモン)は、デスクのバーンズ(ウォルター・マッソー)の人使いの荒さに嫌気が差し、恋人のペギーとの結婚を機に退社を決意する。怒ったバーンズは何とか引き留めようと様々な策を弄するが、一方のヒルディは、たまたま別れの挨拶のために訪れた刑事裁判所の記者クラブで思いがけない特ダネのネタを掴んでしまう…
ビリー・ワイルダーがジャック・レモン&ウォルター・マッソーの名コンビを起用したコメディ映画。
原作は、ハワード・ホークスの傑作スクリューボール・コメディ「ヒズ・ガール・フライデー(1940年)」と同じなのだが、主人公のヒルディ(=名前は同じなんだ!)が女性記者ではなく、男性になっているのが大きな変更点。ただし、もう一つ前の「犯罪都市(1931年)」でもヒルディは男性らしく、おそらく原作となった戯曲でもそうだったのだろう。
さて、その「ヒズ・ガール・フライデー」を見たのは随分昔のことであり、最早、記憶も曖昧になっているのだが、ヒルディ役を演じたロザリンド・ラッセルの破壊的ともいうべき強烈な存在感は強く印象に残っている。正直、それに比べてしまうと、本作でジャック・レモンの演じたヒルディは少々覇気に欠けるような気がしてしまう。
しかし、本作がビリー・ワイルダー68歳のときの作品ということを考えれば、そのような見方がこの作品に相応しくないことは明かであり、おそらく晩年の古今亭志ん生が久しぶりに落語の大ネタを語ってくれるのを聴くのと同じような気分で楽しむのが一番。確かにホークス44歳のときの作品である「ヒズ・ガール・フライデー」のような疾走感には欠けるものの、本作に散りばめられた様々な“くすぐり”を楽しむためには、これくらいのテンションが丁度良かったのだろう。
ということで、allcinemaの解説によると、本作にも登場するアール事件は「’20年に実際に起こった左翼弾圧事件を下敷きにして」いるそうであり、黒人警官を殺害したにもかかわらず、死刑囚のアールが比較的好意的に扱われているのはそれ故なんだろう。前半の見所でもあるマルクス信者の彼とフロイド信者の精神科医との抱腹絶倒の問答シーンにおいても、一貫してからかわれているのは後者の方であり、まあ、このへんの粋な配慮はまさにいぶし銀の名人芸だと思います。