地獄の英雄

1951年作品
監督 ビリー・ワイルダー 出演 カーク・ダグラス、ジャン・スターリン
(あらすじ)
東部の大新聞社をクビになった新聞記者のチャールズ・タタム(カーク・ダグラス)は、流れ着いた先の田舎町にある小さな新聞社に就職し、再起のチャンスを狙っていた。そんなとき、インディアンの遺跡のある洞穴に探検に出かけた男が、落盤事故によって生き埋めになるという事件が起きる….


ビリー・ワイルダーが、名作「サンセット大通り(1950年)」の翌年に公開した作品。

タタムは、この事件を政治的に利用しようとする保安官と共謀し、被害者の救出をわざと遅らせることによって事件を長期化させ、それを全米に独占報道することによって自らのカムバックの契機にしようとする。そして、彼の狙いどおり、この事件は全米の注目を集める一大ニュースへとエスカレートしていく。

事故があったのは砂漠のど真ん中にあるみすぼらしい遺跡なんだけど、そこにニュースを聞き付けた野次馬が次第に集まり始め、遂にはその人出を目当てに沢山の屋台や移動遊園地までが出来てしまう。いや、このマンガみたいに奇想天外な展開が圧倒的な説得力を持って見事に描かれており、正直、ここまで見たときは“これはワイルダーの最高傑作!?”と思ったくらい。

これで主演がジャック・レモンであれば、被害者の容体急変によって自らの過ちに気が付いた主人公が、悪徳保安官の妨害を振り切って真実を報道し、っていう具合に物語が展開していく筈なんだけど、残念ながら、本作の主演は破滅型のカーク・ダグラス。被害者の容体急変はそのとおりだけど、事件は何ともほろ苦い結末へと進んでいく。

まあね、これはこれでいいんだろうけど、本作に対する決して高いとは言えない現在の評価を考えた場合、例えお伽話と揶揄されようとも、もう少し前向きのストーリー展開にしておけば、ひょっとしてワイルダーの代表作になっていたかもしれないのに、ってどうしても思ってしまう。

ということで、ユーモアの似合わないカーク・ダグラスに合わせたのか、ギャグはおろか「サンセット大通り」でも見られたような観客をニヤッとさせる演出さえ見当たらず、この時期のワイルダー作品としてはちょっと異色の雰囲気を持った作品になっています。