ワン、ツー、スリー

1961年作品
監督 ビリー・ワイルダー 出演 ジェームズ・キャグニーホルスト・ブッフホルツ
(あらすじ)
コカ・コーラ社西ベルリン支店長のマクナラマ(ジェームズ・キャグニー)は、妻と子供が家族旅行に出かけている間、美人秘書とデートを楽しむ予定だったが、本社の社長から直々に一人娘の観光旅行のお目付け役を依頼され、折角の計画はご破算。しかも、やって来たそのスカーレットはやたらと惚れっぽい性格であり、彼がちょっと目を離したスキに東ベルリンの青年オットー(ホルスト・ブッフホルツ)と結婚してしまう….


ビリー・ワイルダーが「アパートの鍵貸します(1960年)」の翌年に発表した傑作コメディ。

過去に一度出世の機会を逃しているマクナラマとしては、何としても二度目の失敗は避けたいところであり、一計を案じてオットーを西側のスパイに仕立て上げ、東ドイツの秘密警察に逮捕させることに成功する。しかし、その直後、スカーレットが彼の子供を身ごもっていることが判明。今度はオットーを東から救出し、立派なお婿さんに仕立て上げようと奔走する。

実は、大昔にTVで見たときはあまり良い印象を受けなかったのだが、今回見直してみてビックリ。とても面白い作品だった。特に、冒頭から東ベルリン内に拘束されたオットーを救い出すまでのテンポの良さは素晴らしく、今見ても全く古さを感じさせない。その後、少々展開がダレるものの、ラストのどんでん返しも見事に決まっており、ワイルダー作品としてもかなり上位にランクされる作品だと思う。

製作されたのがベルリンの壁の築かれる直前ということで、本作の社会主義に対する風刺は痛烈であり、昔見たときはそんなところに少々戸惑いを覚えたのかもしれないが、それと同時に、資本主義の浅ましさや、いまだにファシズムの影響を脱し切れていないドイツ人の国民性(?)まで見事に笑い飛ばしており、まあ、決して反共映画という訳ではないんだろう。

出演者としては、公開当事62歳のジェームズ・キャグニーがほとんど出ずっぱりといって良いほどの大活躍であり、ワイルダー&ダイアモンドのコンビの手になる長ゼリフを機関銃のようなスピードでまくし立てる。一説によると、彼は本作の演技で“体力の限界”を痛感したらしいのだが、少なくとも作品上からはそんな気配は微塵も感じられなかった。

ということで、この熱演にもかかわらず、本作は彼の実質上の引退作品になってしまった訳であるが、そんな潔さもやっぱりキャグニーらしい。わが国では80歳を超えても主役に拘り続けた某女優に国民栄誉賞が送られたそうであるが、個人的な趣味から言えばキャグニーの引き際の美学の方に圧倒的に惹かれるところです。