熱砂の秘密

1943年作品
監督 ビリー・ワイルダー 出演 フランチョット・トーン、アン・バクスター
(あらすじ)
北アフリカ戦線では、ロンメル将軍率いる独軍の攻勢により英軍は敗走を続けていた。敗残兵のブランブル伍長(フランチョット・トーン)も命からがら砂漠の中の街シディ・ハルフェイアのホテルに辿りつくが、そこも英軍が撤退した後であり、ホテルには現地人の主人とフランス人の女中ムーシュ(アン・バクスター)の二人だけが残されていた….


ビリー・ワイルダーが「少佐と少女(1942年)」の翌年に発表した作品。

ブランブルが逃げ込んだ直後、ロンメルの率いる独軍がシディ・ハルフェイアに進駐して来て、そのホテルに司令部を設置する。ブランブルは昨夜の空襲で死んだホテルの給仕になりすますが、その給仕が実はドイツ側のスパイであったことから、独軍の秘密の補給基地に関する情報を入手する機会を得る・・・

実際、エジプト征服を目前にしていたロンメルが物資の不足からエル・アラメインの戦いに敗れたのが1942年のことであるから、当時、この作品はほぼリアルタイムといっても良い状況で製作されたことになる。しかし、その内容たるや、恋あり、サスペンスありの立派な娯楽作品に仕立て上げられており、戦争の“悲惨さ”はストーリーを盛り上げるためのスパイス代わりっていう感じ。

登場人物も、イギリス人、ドイツ人、イタリア人、フランス人それに現地人と多種多彩であるが、みなさん流暢な英語で会話しており、まあ、このへんの余裕と能天気さに関しては“さすがハリウッド映画”というしかない。

主役のブランブル伍長は、数年後ならウィリアム・ホールデンが演じていた役どころであろうが、フランチョット・トーンも決して悪くない。相手役のアン・バクスターは、俺には「イヴの総て(1950年)」での印象が強すぎてちょっと苦手な女優さんなんだけど、本作では戦争の悲惨さを一身に背負ったような女性を健気に演じている。

また、敵役のロンメル将軍に扮しているのは、あのエリッヒ・フォン・シュトロハイムであり、例によって貫禄充分の演技を見せてくれる。まあ、時節柄を考慮してからか、ちょっと冷酷さが強調されたキャラクター設定になっているため、やや人間的な魅力に欠けるきらいはあるが、“威容”としか表現できない彼独特のお姿が拝見できただけでも有難い。

ということで、戦意高揚映画もブラケット&ワイルダーの手にかかれば見事な“お話し”に変身してしまうってことが良く解る佳品だった。まあ、“不謹慎”という批判があるかもしれないが、安易にヒロイズムを掻き立てるよりは余程罪は軽いに違いない。