春の序曲

1943年作品
監督 フランク・ボーゼージ 出演 ディアナ・ダービン、フランチョット・トーン
(あらすじ)
歌手になることを夢見るアン(ディアナ・ダービン)は、ニューヨークの高級アパートに住む義兄のマーティンを頼って田舎から出てくるが、実は彼はその家の執事だった。しかし、そこの主人が著名な作曲家のジェラード(フランチョット・トーン)であることを知った彼女は、なんとか彼に自分の歌を聴いて貰いたいと言い出すが、そういった沢山の希望者を排除するのが執事であるマーティンの仕事であった….


ディアナ・ダービン主演の音楽映画。

アンは、マーティンの妹であることを隠し(=何故?)、新入りのメイドとしてジェラード家で働くようになるのだが、彼女のチャーミングなメイド姿に、同じアパート内で働いている5人の執事達やジェラード家のパーティ客はすぐにメロメロになってしまう。しかし、そんな彼女の姿はジェラードの目には入らないようで、歌を聴いてもらうチャンスもなかなか巡ってこない。

まあ、随所でディアナ・ダービンの素晴らしい歌声が聴ける点を除けば、ロマンチック・コメディという分類に属する作品なのであろうが、そんな訳で特に前半はロマンチックよりもコメディとしての色彩の方が強い。ロシア人のポポフをはじめとする執事5人組はなかなか愉快なのだが、マーティンに扮するパット・オブライエンの演技がちょっと堅すぎるのが残念で、この頃なら他にいくらでも優秀なコメディアンがいたろうにと思ってしまう。

また、ロマンチック色が希薄なのは主役のディアナ・ダービンのせいでもある訳で、彼女の健全なイメージは、“皆の人気者”的な存在にはピッタリなのだが、特定の男性とのラブロマンスにはあまり向いていないらしい。彼女の顔がアップになるところで紗をかけたりもしているのだが、やはり当時の美人の基準からするとちょっと太めだったのだろう。

しかし、そんな難点もなんのその、全体としてはなかなか楽しい作品に仕上がっており、最後のクライマックスシーンで彼女の歌う「誰も寝てはならぬ」を聴いていると、もうそれだけでとても幸せな気分になれてしまう。

ということで、ディアナ・ダービンは次の「クリスマスの休暇(1944年)」でイメージチェンジを図るものの失敗し、1950年に29歳の若さで引退してしまう。しかし、今でも御健在のようであり、デビュー当時ライバル的存在であったジュディ・ガーランドの生涯を思うと、まあ、結果的には良い選択だったのかもしれません。