サラエボの花

2006年作品
監督 ヤスミラ・ジュバニッチ 出演 ミリャナ・カラノヴィッチ、ルナ・ミヨヴィッチ
(あらすじ)
サラエボのグルバヴィッツァ地区に住むエスマ(ミリャナ・カラノヴィッチ)は、12歳の娘サラ(ルナ・ミヨヴィッチ)と2人で暮らし。政府から支給される僅かな金額と裁縫の仕事だけでは生活できず、子供がいることを隠してナイトクラブのウェイトレスとして深夜まで必死に働いているのだが、サラが修学旅行に行くための代金である200ユーロをどうしても工面することが出来ない….


ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争終結後のサラエボで暮らす母娘の話。

サラの父親は内戦でチェトニクに殺されたシャヒード(殉教者)であり、その証明書を学校に提出しさえすれば修学旅行の代金は免除される筈なのだが、エスマはなかなか市役所に証明書を貰いに行こうとしない。結局、彼女の女友達の助けで、なんとか200ユーロを支払うことになるのだが、それがきっかけでサラは自分の父親の死に疑問を抱く。

そして、その後に明かされるサラの出生にまつわるエピソードは悲惨としか言いようがないのだが、それと同時に語られる生まれたばかりのサラに対するエスマの思いが、その悲惨さを乗り越えるだけの強さというか、理屈じゃない単純さみたいなものを有しているようで、まあ、なんとか救われる。

事情は異なるのだろうが、戦後60年が経過しても、我が国の映画界が依然として従軍慰安婦問題なんかを正面から取り上げようとしないのに対し、こういった重いテーマの作品がほとんどリアルタイムで製作されるということは、とても凄いことなんだと思う。

バリカンで自分の頭を丸刈りにすることによって“父親”と決別したサラがエスマと和解するというラストは、確かに甘いのかもしれないが、それはこの国に存在する多くのサラ&エスマに対する映画関係者の願いでもある訳であり、当分の間、これ以外のラストはあり得ないのだろう。

ということで、監督兼脚本のヤスミラ・ジュバニッチという人は、サラエボ出身の女性監督であり、これがデビュー作とのこと。正直、お話しとしてはちょっとストレート過ぎると思うが、この作品に込められた彼女の気持ちは見る者に十分伝わってくるところであり、次回作にも期待したいと思います。