マルコムX

荒このみ氏というアメリカ文学が専門の学者さんが書いたマルコムXの評伝。

あまり新書は読まない方なのだが、先日見たスパイク・リーの「マルコムX(1992年)」での印象が、俺がそれまで抱いていたマルコムX像と随分違っていたのが気になっていた故、ちょうどタイミング良く出版された本書を読んでみた次第。

結論から言うと、本書から浮かび上がって来るマルコムXのイメージは、スパイク・リーの映画で描かれていたものとほぼ一致するものであり、俺が抱いていたマルコムXの「暴力性」というイメージは、筆者の主張する「メディアや当局の喧伝」によって植え付けられたものらしい。

まあ、“愛と非暴力”をスローガンに掲げるキング牧師に比較すれば、自己防衛のための暴力を容認するマルコムXはより暴力的と言えるのかもしれないが、そのことをもって彼の「暴力性」を肯定するのであれば、おそらく全人類の99%以上が「暴力性」を有していることになってしまうだろう。

また、キング牧師の主張する統合主義は、俺にとって、マルコムXの分離主義よりも耳当たりが良いのだが、それは現在の俺がこの国の多数派に属しているためなのかも知れず、少なくとも多数派の側から少数派に対して統合主義を主張することは大きな間違いなのだと思う。

ということで、マルコムXが“反白人”という点で戦時中の日本にシンパシーを抱いていたというのは本書を読んで初めて知ったことであるが、当時の(?)日本の真意は“二級の白人”としてアジアに君臨することだった訳であり、まあ、分離主義の立場からすれば到底容認し難いと言わざるを得ないのでしょう。