バロン

1989年作品
監督 テリー・ギリアム 出演 ジョン・ネヴィルサラ・ポーリー
(あらすじ)
18世紀後半“理性の時代”のドイツ。トルコ軍との戦闘の最前線にあるロイヤル劇場では、ヘンリー・ソルト一座により喜劇「ほら吹き男爵の冒険」が上演されていたが、突然、そこに本物の“バロン”を名乗る老人(ジョン・ネヴィル)が乱入してくる。今回の戦争の原因は自分にあると主張する彼は、町をトルコ軍から救うため、少女サリー(サラ・ポーリー)と共に昔の仲間を探す旅に出る….


テリー・ギリアムによるドイツ民話「ほら吹き男爵の冒険」の映画化。

バロンとサリーが旅をするのは、月の王国→エトナ火山にあるバルカン神の武器工場→巨大な魚の腹の中、といった具合であり、それぞれの世界で珍妙な登場人物を相手に奇想天外の冒険を繰り広げる。

民話がベースということで、エピソード自体は子供だましに毛が生えた程度の他愛のないものが多いのだが、決して子供向けという訳ではなく、時に不謹慎で、時にエロチックな脱力系ギャグの連発を真に楽しむことが出来るのは大人だけ。エリック・アイドルが出演していることもあり、往年のモンティ・パイソン・シリーズの中の一作だと言われても、そう違和感はなさそう。

また、ファンタジー映画にもかかわらず、高度なCG技術には頼らず、手作り感に溢れる特撮技法を採用しているところもモンティ・パイソンを髣髴させる所以であり、まあ、それなりにお金は注ぎ込まれているのだろうが、良い意味での“安っぽさ=非権威主義的姿勢”はしっかりと維持されていた。

フィッシャー・キング(1991年)」に出演していたロビン・ウィリアムズは、こちらでも月の王国の王様役で顔を見せているのだが、頭と胴体が取り外し可能で、前者は肉欲の塊のような後者を嫌悪している、という設定は、正にテリー・ギリアムならではといったところ。ヴィーナスに扮したユア・サーマンの清純な美しさも印象的だった。

ということで、町を牛耳っているホレイシオ・ジャクソン閣下の制止を振り切ってバロンが城門を開けると、そこにトルコ軍の姿はなかった、というラストは、ソ連や中国といった“仮想敵国”をでっち上げることにより、憲法9条を空文化し続けてきたどこかの国に対する痛烈な皮肉のようにも思えました。