お嬢さん社長

1953年作品
監督 川島雄三 出演 美空ひばり佐田啓二
(あらすじ)
日本一乳菓のワンマン社長である小原重三郎が高血圧で倒れてしまい、彼から孫娘のマドカ(美空ひばり)に対し、自分の代わりに社長をやるようにとの命令が下る。まだ16歳で歌劇スターを夢みるマドカはその話を必死に固辞するものの、社長秘書の由美子の説得もあって、不承不承引き受けることになる….


川島雄三美空ひばりと組んで発表した和製ミュージカル映画

公開当時、実年齢も16歳であった美空ひばりは、その人気がまさに絶頂期を迎えようとしていた頃に当たるらしく、allcinemaのデータによると、この年だけで実に10本もの映画に出演している。

これに対し、川島雄三の方は、「洲崎パラダイス 赤信号(1956年)」や「幕末太陽傳(1957年)」といった傑作を世に送り出すのはまだこれから数年先という時期。そんな両者の力関係もあって、まあ、川島が不本意ながら監督を務めさせられた粗製乱造のアイドル映画だろうという偏見を持って本作を見た訳だが、意外にも(?)彼は決して手抜きをしておらず、ちゃんとそれなりのコメディ作品に仕上げられている。

93分という限られた上映時間の中、当然、美空ひばりが歌って踊るシーンに相当の時間が費やされる訳であるが、その残された時間を使って、日本一乳菓の乗っ取り騒動やマドカと舞台監督の秋山(佐田啓二)との淡い初恋、そして彼女の亡き母親が生まれ育ったという浅草裏お稲荷横丁の住人たちとの心温まる交流の様子等が、極めてテンポ良く描かれている。

多彩な脇役陣もなかなか充実した演技で楽しませてくれるんだけれど、これに対し、肝心の美空ひばりがいま一つパッとしないのがとても残念。どう見ても彼女が“お嬢さん”には見えないという点はともかく、ディアナ・ダービンジュディ・ガーランドといったあちらの少女スターと比較すると、演技、歌、踊り等のすべての面において相当のパワー不足であることは否めない。

ということで、本作は俺がこれまでに見た川島作品では最も古い時期の作品であるが、既に十分見ごたえのある作品となっていたのは流石であり、この頃の彼の監督作品をもっと沢山見てみたいところです。