狩人の夜

1955年
監督 チャールズ・ロートン 出演 ロバート・ミッチャムシェリー・ウィンタース
(あらすじ)
銀行強盗で大金を手に入れたハーパーは、その金の隠し場所を幼い我が子に伝えた直後に逮捕され、死刑になってしまう。そんなハーパーと同じ檻房に収容されていたエセ伝道師のハリー・パウエル(ロバート・ミッチャム)は、ハーパーの寝言等から事情を察知し、出獄後、素知らぬ顔で未亡人のウィラ・ハーパー(シェリー・ウィンタース)と再婚。幼いジョンとパールから大金の隠し場所を聞き出そうとする…


名優チャールズ・ロートンが監督を務めた唯一の作品。

いわゆる“カルト映画”としても高く評価(?)されている作品であり、おそらくその原因になっているのはバランスを欠いた脚本と編集の稚拙さ。Wikipediaによるとジェームズ・エイジーが担当した脚本が長すぎて使い物にならず、ロートンが大幅に手直しすることによって何とか撮影にこぎ着けたらしいのだが、その後遺症は明かであり、ブツ切りのようなエピソードの羅列はお世辞にもスムーズとは言い難い。

しかし、ドイツ表現主義の影響を強く受けた映像美はそんなアンバランスなストーリーテリングに絶妙にマッチしており、おそらくケガの功名なんだろうが、もしこれがロートン監督の“計算”の結果なのだとしたらもの凄いこと。川底に沈められた車の中でユラユラと漂うウィラの髪の毛の美しさは絶品であり、撮影的にもかなり大変だったのではなかろうか。

それに続くジョンとパールのボートによる逃避行のエピソードでも、まあ、普通なら追う者と追われる者との緊迫感を最優先させるところだろうが、ロートン監督が採用したのはそれとは真逆のダークファンタジー路線。時間経過の表現が曖昧で、馬で追いかけてくるハリーのスピードとの整合性も疑問なのだが、その絵本のような映像がとても印象的なのは認めざるを得ない。

さらに、リリアン・ギッシュ扮する老女が一人で殺人犯の魔の手から幼い子ども達を守り抜くという結末も少々非現実的なのだが、前段のファンタジー路線の余韻のせいなのか、思ったよりも違和感は少ない。繰り返しになるが、これがロートン監督の計算の結果なのだとしたら、ヒッチコック顔負けのもの凄い才能だと思う。

ということで、もう一人忘れていけないのは、“愚かな女”の典型を見事に演じてみせたシェリー・ウィンタースであり、ウィラがハリーから初夜を拒否されるシーンの惨めさは彼女でなければ表現不能。結局、「陽のあたる場所(1951年)」や「ポセイドン・アドベンチャー(1972年)」同様、水中に沈められてしまうのだが、う~ん、彼女には水難の相でもあったのでしょうか。