黒い牡牛

1956年
監督 アーヴィング・ラパー 出演 マイケル・レイ、 ロドルフォ・オヨJr. 
(あらすじ)
メキシコの牧場で働いている貧しい牧夫の息子であるレオナルド(マイケル・レイ)は、自ら“ヒターノ”と名付けた一頭の仔牛をとても大切に育てていた。一時は牧場の牛だと言われて取り上げられてしまったこともあるが、寛大な牧場主に直接手紙で訴えることによって無事取り戻すことに成功。しかし、その牧場主が急死してしまったため、成長したヒターノは再び闘牛として売り払われてしまうことに…


ロバート・リッチなる人物による原案がアカデミー原案賞に輝いた作品。

この“ロバート・リッチ”がダルトン・トランボの変名であることは有名な話であり、昔から一度見てみようと思っていたのだが、「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(2015年)」にも出てきた“キング・ブラザーズ”という製作会社がかなりいかがわしそうだったこともあり、正直、映画としての出来自体にはあまり期待をしていなかった。

ところが、冒頭のクレジットに記されているのは監督のアーヴィング・ラパーをはじめ、撮影のジャック・カーディフ、音楽のヴィクター・ヤングといった超一流の映画人の名前。まあ、俳優は知らない人ばかりだったが、それ以外は大手映画会社による当時のハリウッド映画に比較してもまったく引けを取らない陣容であり、実際、映像も音楽もとても良く出来ている。

それらに比べると、むしろ“子ども向け”に作られたストーリーの方がやや物足りなく感じられるくらいであり、特に、ヒターノが闘牛場で殺されてしまうのを阻止しようとするレオナルド少年の奮闘ぶりは明らかにサービス過剰。何のコネもない一介の牧夫の息子が、いきなりメキシコ大統領に面会できてしまうのはいくら何でもマズいだろう。

しかし、そんなレオナルド少年の努力が水泡に帰してしまってからの残り十数分間(?)の展開が本作のクライマックスであり、何と本作の真の主役はレオナルド少年ではなく、“The Brave One”ことヒターノ自身であったことが明らかになる。“闘牛は野蛮か芸術か”などという低次元の議論を軽く飛び越えてみせた彼は、自らの死すべき運命を強引にねじ伏せて無事レオナルド少年の元へ帰っていく!

ということで、闘牛場に詰めかけた大観衆の前で繰り広げられるヒターノvs.フェルミン・リヴェラ(=本物の闘牛士らしい。)の死闘は圧倒的であり、これまで食わず嫌いだった闘牛の魅力をしっかり教えてくれる。このような、ある意味危険とも言えるテーマを子ども向け映画に潜り込ませたトランボの意図は興味深いところであり、やはり相当したたかな人物だったのでしょう。