ル・アーヴルの靴みがき

2011年作品
監督 アキ・カウリスマキ 出演 アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン
(あらすじ)
北フランスの港町ル・アーヴル靴みがきで生計を立てているマルセル(アンドレ・ウィルム)は、愛する老妻のアルレッティ(カティ・オウティネン)と二人、貧しくも静かな暮らしを送っていた。ある日、アルレッティが不治の病で入院することになり、彼女は病名をマルセルに教えないよう主治医に依頼するが、その頃、マルセルはアフリカから密航してきた少年イドリッサと出会う….


フィンランドを代表する奇才アキ・カウリスマキ監督のコメディ映画。

上映時間93分の小品なのだが、マルセルとイドリッサ少年とが出会う前と後とで登場人物たちの性格が大きく変化するところが面白い。少年と出会う前は、全体的に殺伐とした雰囲気が漂っており、マルセルは目の前で殺人が起きても顔色一つ変えないし、近所のパン屋や果物屋は彼が商品をツケで購入することを露骨に嫌がっている。

ところが、マルセルがイドリッサ少年と出会い、彼を助けたいと思った瞬間から状況は一変。パン屋のおばさんや果物屋の夫婦はイドリッサ少年を警察から匿うのに積極的に協力してくれるようになるし、あれほどケチだったマルセルも自腹を切って少年の逃亡資金を用立てようとする。

コメディ仕立てということで、この変化に関する明確な説明は省略されているのだが、まあ、野暮を承知で理屈を付けるとすれば、イドリッサ少年というあまりにも無垢な存在と触れ合うことにより、人々の心の奥底に眠っていた善意が目を覚ましたということなのかもしれない。ラストの絵に描いたようなハッピーエンドは、そのオマケみたいなものなんだろう。

一方、本作の持つ社会的メッセージの方は明確であり、それは不況を背景としてヨーロッパ諸国等に広がりつつある排外主義に対するアンチテーゼ。しかも、少年を助けようとするのが(不法移民の男性を除き)高齢者ばかりというのが興味深く、我が国同様、右翼化の傾向は若年層により強く見られるようである。

ということで、少年の逃亡資金を工面するためにモグリのチャリティー・コンサートが催されるのだが、そこに登場するのが往年のロックンローラーであるリトル・ボブ。外見はただの冴えない小柄なオッサンなのだが、ステージ上でのパフォーマンスは堂々たるものであり、立派に本作の見所の一つになっています。