十字砲火

1947年作品
監督 エドワード・ドミトリク 出演 ロバート・ヤング、ロバート・ミッチャム
(あらすじ)
第二次大戦が終わってまだ間もない頃、サミュエルという男が自宅で暴行を受けて殺害されるという事件が発生する。現場検証に当たったフィンレイ警部(ロバート・ヤング)は、遺留品や近くにいた復員兵モンティの証言から、同じ復員兵のミッチが事件に関わっている可能性が高いと判断。彼の同僚であるキーリー(ロバート・ミッチャム)を呼び出し、ミッチの行方を聴き出そうとする….


「紳士協定(1947年)」と並び、ユダヤ人差別の問題を最も早い時期に取上げたことで知られる作品。

とはいっても、本格的な社会派ドラマである「紳士協定」がユダヤ人差別の問題を正面から取り上げているのに対し、本作はあくまでも“犯罪もの”の範疇に属する作品。フィンレイが殺人事件の捜査を続けるうちに、犯人の殺害動機がユダヤ人差別に起因していることが明らかになってくるという仕組みになっている。

結末をバラしてしまうと、“犯人は現場に舞い戻る”という格言(?)のとおり、真犯人は、フィンレイが現場検証をしているところにノコノコと顔を出したモンティ(ロバート・ライアン)であり、フィンレイに対しては礼儀正しく“サー”付きで接する彼が、その同じ口でユダヤ人に対する偏見を当たり前のことのように披露する様子がとても恐ろしい。

これに対し、やはり人種差別の犠牲となって非業の死を遂げたアイルランド移民を祖父に持つフィンレイは、この問題に対する嗅覚が常人よりも優れているようであり、普通の人間なら聞き逃してしまうようなモンティの差別発言を手掛かりにして、見事、犯人を探し当てる。

また、人種差別以外にも、一部の復員兵を苦しめている精神的な問題の存在を指摘するなど、なかなかリベラルな視点に立った作品なのだが、最後の最後に逃亡を図った容疑者をフィンレイが当然のように射殺してしまうのがちょっとした驚きであり、まあ、このへんがハリウッド映画の限界なんだろう。

ということで、本作には3人の“ロバート”が俳優として顔を揃えているのだが、残る一人であるロバート・ミッチャムが演じているキーリーの存在価値は他の二人に比べてかなり希薄。おそらく、地味な男優陣を華やかにする目的で起用されたのだろうが、まあ、そういうことであれば、公開当時30歳の彼は十分その期待に応えていたと思います。