仮面の男

1944年作品
監督 ジーン・ネグレスコ 出演 ピーター・ローレシドニー・グリーンストリート
(あらすじ)
ヨーロッパを旅行中だったミステリイ作家のライデン(ピーター・ローレ)は、イスタンブールでディミトリアスという犯罪者の死体と対面。地元の憲兵隊から彼の犯罪歴を知らされたライデンは、その数奇な人生に興味を抱き、小説の題材にするため彼の足跡をたどってみることにするが、そんなライデンにピータース(シドニー・グリーンストリート)と名乗る謎の男が付きまとうことに….


ピーター・ローレをはじめ、なかなか渋い顔ぶれを揃えた犯罪映画。

ディミトリアスは、1922年にトルコで最初の(?)殺人を犯して以降、翌年にはソフィアで首相の暗殺に関与、その3年後にはベオグラードでスパイ活動に従事した後、パリの国際密輸組織に加わり、最後は仲間を裏切って組織を壊滅させた上で行方をくらますという、輝かしい犯罪歴の持ち主。

主人公のライデンはその犯罪の現場となった都市を次々に訪れ、関係者からディミトリアスに関する話を聞きだすのだが、その回想シーンが劇中劇のようになっていて、これがなかなか面白い。そこで描かれるディミトリアスの素顔は、自分の利益しか考えない正真正銘の悪人であり、他人の不幸なんて一顧だにしないその一貫した姿勢からは、(次第に彼の魅力に引き込まれていくライデンと同様)ある種の清々しささえ感じ取れてしまう。

このディミトリアスを演じているザカリー・スコットという俳優さんを拝見するのは、ジャン・ルノワールの「南部の人(1945年)」以来これが2度目だと思うが、「南部の人」での貧しい農夫役とは180度異なったキャラクターを巧みに演じており、“ワルの魅力”がなかなか格好いい。

そして、そんなスマートなディミトリアスと対照的なのが、ライデンとピータースの凸凹コンビであり、この二人が対峙するシーンは絵づら的にはコメディなのだが、ストーリーは完全にシリアス。下手な俳優が演じると、劇中劇の狂言回しになってしまう危険性もあったのだろうが、まあ、この二人の存在感からすればそんな心配は全くの無用だった。

ということで、終盤のどんでん返しがちょっと弱いのが残念であるが、出演者は皆さんとても魅力的であり、全体的な印象は決して悪くない。なお、ラストで腹に二発の銃弾を食らったはずのピータースがその後も意外に元気なのは、シドニー・グリーンストリートのあの分厚い脂肪のおかげということでよいのでしょうか。