ミュージカル「ラ・マンチャの男」

今日は、妻&娘と一緒に帝国劇場で上演中のミュージカル「ラ・マンチャの男」を見てきた。

主題歌とも言うべき「The Impossible Dream」が大好きなので、本作にも以前から興味はあったのだが、主役を務めるのが70歳過ぎの老人ということで妻&娘に勧めるのには少々の躊躇いが無きにしも非ず。しかし、7月に見た渡辺謙の「王様と私」が意外に好評だったことに背中を押されて恐る恐る申し出てみたところ、二つ返事で快諾!

さて、東京駅地下の「やえす初藤」という居酒屋(?)で安くて早めの昼食を済ませると、まだ開演時刻の12時までには時間があるので、皇居周辺をぶらぶら散歩しながら目的地に向かう。来週に控えた即位礼のせいもあるのかもしれないが、街中に台風19号の痕跡は見当たらず、「天気の子(2019年)」における新海監督の幻視にもかかわらず、水没したのは地方の方だったんだなあ、と少々複雑な思いに悩まされながら帝国劇場に着く。

手配しておいた座席は前から4列目の左側であり、正面ではないものの役者さんの表情等は良く見える。昔見たピーター・オトゥール主演の「ラ・マンチャの男(1972年)」の記憶はもはや曖昧であるが、地下牢に幽閉されたセルバンテス自身が演じる劇中劇という設定はやはり映画よりも舞台向きであり、大掛かりなセットの入れ替えも無しに劇はテンポ良く進んでいく。

1969年以来、この役を1300回近く演じているという主役の松本白鸚はさすがの貫禄であり、アクション・シーンこそ少々スローモーションながら、それ以外の立ち居振舞、そして豊かな声量にはほとんど衰えを感じさせない。唯一、「The Impossible Dream」が日本語だった故、“To dream the impossibe dream~”という耳慣れた歌詞を耳にすることが出来なかったのは残念だが、それ以外の点では大満足の熱演だった。

一方、ヒロインのアルドンサを演じていた瀬奈じゅんという女優さんは宝塚の出身らしいが、おそらく男役だったために高音部での歌唱が少々物足りないところが気になった。また、アルドンサが男たちから集団暴行を受けるシーンの性描写がなかなか露骨であり、松たか子がこの役を演じたときにもこれと同じ演出だったのかしら。

ちなみに、映画版の記憶が曖昧なため確証はないのだが、見る前にイメージしていたより悲劇的な印象が強かったのがちょっと意外。映画版では、アロンソ・キハーナの現実逃避的な狂気が、やがてドン・キホーテの理想・希望へと昇華されていく筋立てがもっと明確だったような気がするのだが、正直、本作のラストからはそんな前向きな力強さはほとんど伝わってこない。う~ん、これって庶民の夢も希望も許容しない我が国の苛酷な“現実”を反映しているのかもしれないなあ。

ということで、振り出しの皇居散歩が悪かったのかもしれないが、このまま格差の拡大が続いていくと、いつかセルバンテスの揶揄した中世の時代へと逆戻りしてしまうのではないかととても不安になってきた。とりあえず、“首都圏外郭放水路”だか何だか知らないが、我が国の中央と地方の経済格差の影響が防災面にも及んでいるという事実を、我々は十分認識しておく必要があると思います。