アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル

2017年
監督 クレイグ・ギレスピー 出演 マーゴット・ロビーアリソン・ジャネイ
(あらすじ)
貧しい家庭に生まれたトーニャ(マーゴット・ロビー)は、母親のラヴォナ(アリソン・ジャネイ)の言いつけにより4歳の頃から本格的にフィギュアスケートの練習を開始する。体罰も厭わない母親の厳しい叱咤激励のせいもあって、次第にその才能を開花させていくトーニャだったが、貧しさの故に品のある衣装を身に付けることが出来ず、それが試合の点数に響くことも…


米国のフィギュアスケート選手だったトーニャ・ハーディングの半生を描いた作品。

1994年のリレハンメルオリンピックに出場したときのトーニャ・ハーディングのことは今でも良く覚えており、その直前に起きた「ナンシー・ケリガン殴打事件」の中心人物としてスケートリンクに登場する前から“悪役”のイメージが強かった。しかも、実際に我々の前に姿を現わした彼女は、そのイメージが間違いではなかったことを自ら証明するかのような傍若無人ぶりであり、う~ん、世の中にはとんでもない選手がいるんだなあというのが彼女に対する感想のすべて。

そんなトーニャ・ハーディングの半生を、「スーサイド・スクワッド(2016年)」のハーレイ・クイン役で世の男性を魅了したマーゴット・ロビーが演じるというので興味を持ったのだが、正直、本作にハーレイ・クインの幻影を追い求めるのは大きな間違いであり、我々が目にするのは愚かで下品で哀れなトーニャ・ハーディングその人。

はっきり言って、公開当時27歳のマーゴット・ロビーが15歳当時のトーニャを演じるのはさすがに無理がある(=それもギャグのつもりなのかな?)が、その点を除けばこれまでの彼女のイメージを一新させるような大熱演であり、どんなときにも笑いを忘れない達者なシナリオを含めてとても面白い作品に仕上がっている。

当事者の証言が食い違っているため、本作の内容も一つの“可能性”として判断するしかないのだが、このように暴力的な環境の中で育てられた少女が暴力的な人間に成長するのは、まあ、ある程度やむを得ないことであり、少なくともその責任を彼女だけに押しつけるべきではない。そんな彼女に“気品”や“理想的な家族像”を要求するフィギュアスケート界がちょっぴり嫌いになった。

ということで、リレハンメルオリンピックに出場したトーニャは、何億人もの人間の敵意や憎悪、嘲りの対象になった訳だが、その何億人の中に俺が含まれていたのは紛れもない事実。マスコミは今でも連日のように新たな“悪人”を作り出しているが、我々が彼らの背景を知ることは困難であり、“罪を憎んで人を憎まず”という言葉にはそのことに対する配慮の意も込められているのかもしれません。