百万人の音楽

1944年
監督 ヘンリー・コスター 出演 マーガレット・オブライエン、ジューン・アリソン
(あらすじ)
幼いマイク(マーガレット・オブライエン)は、オーケストラでコントラバス奏手を務めている姉のバーバラ(ジューン・アリソン)に会うために一人でニューヨークにやってくる。久しぶりの再会を喜ぶ二人だったが、妊娠が判明したバーバラは南太平洋に出征している夫から長らく手紙が届かないことを気に病んでおり、マイクはそんな姉を何とか元気付けようとするのだが…


名子役と言われたマーガレット・オブライエンが主演を務める音楽映画。

監督がヘンリー・コスターなので、やはり彼が監督を務めた「オーケストラの少女(1937年)」の二番煎じ(?)みたいな楽しい作品を期待していたのだが、さすがのマーガレット・オブライエンも歌唱力には恵まれなかったようであり、戦時中ということもあってか、特にドラマパートは意外なほどシリアスな内容になっている。

その原因は、南太平洋で大日本帝国軍(=幼いマイクも“ジャップ”と呼んでいる。)と戦っているバーバラの夫からの連絡が何ヶ月間も途絶えているせいであり、それを知ったマイクは何とか姉を元気付けようとするのだが、彼女に出来るのは信仰心の薄い姉に神様へのお願いの仕方を教えることくらい。まあ、それが銃後の家族の実態だったのだろう。

こういったやや深刻ぶった演技はマーガレット・オブライエンの十八番のはずなのだが、脚本が弱いのか、見ていて目頭が熱くなるようなシーンは一つも出て来ない。また、バーバラ役のジューン・アリソンもいつもの明るさを見せてくれるのはほんの序盤だけであり、正直、こんなに元気の無い彼女を見たのは初めての経験。

そんな二人を差し置いて本作の音楽パートを盛り上げてくれるのが大ベテランのジミー・デュランテとホセ・イトゥルビの二人であり、本人役で出演している後者はスペイン出身の正真正銘のピアニスト兼指揮者らしい。当然、スタイルは全く異なるのだが、前者の渋いノドも後者の哀愁を帯びたピアノソロもとても素晴らしい出来だった。

ということで、決して悪い作品ではないのだが、マーガレット・オブライエンの“健気さ”やジューン・アリソンの“明るさ”が十分に活かされていないところがちょっと残念。しかし、日本公開された1947年度のキネ旬ベストテンで本作は外国映画の5位に入っているそうであり、う~ん、戦時中に公開されたにもかかわらず、全く戦意高揚映画になっていないところが高く評価されたのかもしれません。