検察官閣下

1949年作品
監督 ヘンリー・コスター 出演 ダニー・ケイ、バーバラ・ベイツ
(あらすじ)
ロシアのある田舎町。検察官が各地で隠密調査を行っているという噂が広がり、“身に覚えのある”市長は戦々恐々の毎日。そんなところに現れたお人好しの詐欺師ゲオルギー(ダニー・ケイ)を市長は検察官と勘違いし、汚職を見逃してもらおうと歓待する。気の弱いゲオルギーは正体がバレる前に逃げ出そうとするが、市長の家で働く女中のロザ(バーバラ・ベイツ)から市長が売り払ってしまった教会のオルガンを取り戻して欲しいと懇願され….


ダニー・ケイ主演のミュージカル・コメディ。彼の若々しい歌声と、踊りの代わりの愉快なボードビル芸が見られる。

「虹を掴む男(1947年)」を観たときにも感じたことだが、この頃のダニー・ケイの作品では“彼の芸を映画の中にどのように当て嵌めるか”ということが重要だったらしく、映画としての完成度を多少犠牲にしても、彼の芸をスクリーン上でより多く披露することのほうが優先されたように思われる。

その典型的な例は、検察官の歓迎パーティーの席上でダニー・ケイ扮するゲオルギーが「ジプシーの飲み歌」を歌う場面。このシーンは、この映画のクライマックスの一つであり、彼の大熱演もあって、ここだけ見ている分にはとても面白いのだが、そこに写っているのは“厳格な検察官”でも“気弱なゲオルギー”でもなく、芸人ダニー・ケイその人である。

まぁ、所詮コメディーなのだから(?)とやかく言うのも野暮かもしれないが、途中で主役のキャラが変わってしまうのは、映画の世界に集中できず、矢張りちょっと困りもの。「五つの銅貨(1959年)」のように彼の芸が映画の中に無理なくとけ込み、作品の完成度を高めるのに役立つようになるためには、もう少し時間と経験が必要だったようだ。

それと、これもいつも思うことだが、残念ながら俺を含むほとんどの日本人には早口や訛りを駆使した彼の芸を真に理解し、楽しむことはできないのだろう。これは、ピーター・セラーズなんかの作品についても言えることだが、こういうときにはあちらの観客が本当に羨ましい。