2000年版「このミステリーがすごい!」で2位に選ばれた東野圭吾の代表作の一つ。前に読んだ「変身」がちょっと期待はずれだったので、今回は事前にネットで情報収集してから購入した。妻と娘の話によると、前にTVドラマ化されたことがあるとのことだが、俺は見ていないので問題なし。
文庫本の解説によると、元々連作の短編小説として発表されたものを長編に仕上げなおしたものとのことで、昭和48年頃に始まり、その後の約20年間に主人公の唐沢雪穂と桐原亮司の回りに起きる事件の数々を描いている。亮司はコンピュータ業界に関係が深いという設定のため、その時々のパソコン(当時はマイコンと呼ばれてたんだけどね。)やファミコンに関する話題が出てくるので、PC8001等で遊んでいた俺にはちょっと懐かしかった。
そんなこともあって、まあ、それなりには面白かったのだが、傑作とか名作とかいうのにはちょっと躊躇ってしまう。雪穂はいわゆる“魔性の女”であり、後半、三人の男が彼女の正体を追求するのだが、この雪穂というキャラが、実は結構薄っぺらで中身がないせいもあってか、これが意外に盛り上がらない。だいたい、彼女の動機というか、最終的な目的が何だったのか最後まで明らかにされないというのは、ミステリとして“有り”なのか。
それと、これはセールス的には良いことなのだろうが、やはりとても読みやすい。その理由として、まあ、文章や構成が巧みだということもあるのだろうが、それ以上に、読者の想像力に負担をかけない、ということが大きいように思う。性的暴力の犠牲者、職務に忠実な老刑事、育ちの良いエリートサラリーマンなどの登場人物が見事なまでにステロタイプ化されており、その性格や反応が容易に予測できるため、寝ころんでTVドラマを見ているようにストーリーが難無く理解できてしまうのだが、果たしてこれはブンガク的には良いことなのだろうか。