あん

2015

監督 河瀬直美 出演 樹木希林永瀬正敏

(あらすじ)

町の小さなどら焼き屋で雇われ店長をしている千太郎(永瀬正敏)の前に、ある日、徳江(樹木希林)という指に障害を持つ老婆が現われる。彼女の“アルバイトに雇って欲しい”という申し出に困惑し、まともに取り合おうとしなかった千太郎であるが、後日、徳江が持参した粒あんのあまりの美味しさに驚いて彼女の採用を決定。やがて、その粒あんを使ったどら焼きが評判となり、店は大繁盛となるのだが…

 

 

昨年9月に亡くなった樹木希林の主演映画を妻のリクエストに応じて鑑賞。

 

とはいっても直接のきっかけになったのは、本作に徳江の友人役(=佳子)として出演している市原悦子の訃報(=1月12日死去)の方であり、例によってそれと一緒にTVで繰り返し伝えられる彼女の“代表作”の中で、特にこの作品が妻の興味を惹いたらしい。

 

まあ、そんな訳で、本作に関しては完全に予備知識ゼロの状態で鑑賞に臨んだ訳であるが、開始早々、監督のところに河瀬直美の名前を見つけてちょっと困惑。正直、彼女の作品は高尚すぎて我が家の家風(?)には合わないと勝手に思い込んでおり、これまで一度も拝見したことがないのだが、幸い、本作には別に原作が存在するようであり、少なくとも見ていて理解に戸惑うようなエピソードは一つも見当たらなかった。

 

さて、本作の最大のテーマはハンセン病患者に対する差別の問題であり、徳江がハンセン病患者の療養施設に住んでいることが知られるようになると、あれほど繁盛していた客足がパタッと止まってしまう。結局、彼女は店を辞めることになり、間もなく亡くなってしまうのだが、一方の千太郎は彼女を守ってやれなかった自分の不甲斐なさを嘆くことになる。

 

ラストは、その療養施設のお花見会でどら焼きを焼く千太郎の吹っ切れたような笑顔で幕を閉じるのだが、少々きれいにまとめ過ぎてしまったところが不満であり、徳江や佳子らの社会に対する怒りが全く伝わってこない。まあ、そういう映画ではないと言われてしまえばそれまでだが、彼女らの聖人の如き寛容さだけを強調するのは、先の大戦戦没者を“英霊”として何の反省もせずに奉ることに通じているような気がする。

 

ということで、実は、千太郎自身も“前科者”というイジメ・差別の被害者の一人であり、当然、本作が担うべき責任の範疇もハンセン病患者だけに止まらないハズ。本作の徳江の設定を、今、学校で深刻なイジメを受けている中学生(=ワカナ?)にでも入れ替えてみれば、このラストの不十分さがより明確になると思います。