1975年作品
監督 フランソワ・トリュフォー 出演 イザベル・アジャーニ、ブルース・ロビンソン
(あらすじ)
米国で南北戦争が勃発した頃、英国領であったカナダの港町ハリファックスにアデル(イザベル・アジャーニ)という若い娘が一人でやって来る。彼女は、偽名を使って下宿先のサンダース家に身を寄せるが、実は、文豪ヴィクトル・ユゴーの娘であり、両親のもとを出奔し、初恋の相手である英国騎兵中尉のアルバート・ピンソン(ブルース・ロビンソン)を追ってここまで来たのだった….
フランソワ・トリュフォー監督によるイザベル・アジャーニの出世作。
残念ながらピンソン中尉の方はアデルの過剰な恋愛感情を持て余しているようであり、他の娘との結婚の予定まであるらしい。それを知ったアデルは、彼の結婚相手の家に乗り込んでこの縁談をブチ壊したり、さらには催眠術で彼の心を操ろうとしたりと、まあ、今ならストーカー扱いされても仕方ないような行為にまで及ぶ始末。
しかし、公開当時二十歳になったばかりであるイザベル・アジャーニの張りつめたような美貌と、ストーリー的にはピンソン中尉を決して単純な悪者にしなかった点が功を奏し、本作は見事な悲恋の物語に仕上がっており、このへんは流石トリフォーといったところ。少々クラシカルで美しい映像もとても効果的だった。
本作の原作であるフランセス・V・ギールの「アデル・ユーゴーの日記」は実話をもとにしているということで、ガーンジー島に亡命中であったヴィクトル・ユゴーの次女アデルが恋人を追って家出をしたというのは本当のことらしい。もっとも、実際に彼女がカナダに渡ったときの年齢は33歳であり、本作で描かれているアデル像とはちょっとイメージが食い違うが、まあ、そこはトリュフォー監督の“配慮”なんだろう。
また、彼女の姉レオポルディーヌが結婚してまもなく溺死したというのも事実であり、本作でもアデルがそのせいで夜中にうなされるシーンが何度か描かれている。俺にはこのシーンの意味するところが良く解らなかったんだけど、もしかするとこの事故の記憶が後にアデルが精神に変調を来す原因の一つになっていたのかも知れないなあ。
ということで、本作は、もう間違いなくアデルの“恋の物語”であり、名監督が素晴らしい素材(=イザベル・アジャーニ)と出会えば、それだけで十分に鑑賞価値のある作品が生まれてしまうということが良〜く分かりました。