幸福

1964年
監督 アニエス・ヴァルダ 出演 ジャン=クロード・ドルオ、クレール・ドルオ
(あらすじ)
叔父の経営する建具店で働いているフランソワ(ジャン=クロード・ドルオ)は、美しくて働き者の妻テレーズ(クレール・ドルオ)と天使のように愛らしい二人の子どもと一緒に幸福な暮らしを送っていた。そんなある日、出張で近くの町の郵便局を訪れた彼は、そこの窓口で働いていたエミリーという気さくな女性にひと目惚れしてしまい、彼女の方も彼に好意を抱いた様子だった…


やはりフランス映画界で長期にわたり活躍したアニエス・ヴァルダ監督の初期の代表作。

U-NEXTで見たブレッソン監督の「抵抗(レジスタンス)−死刑囚の手記より−(1956年)」が予想以上に面白かったので、こちらも長らく気になっていたヴァルダ監督の恋愛映画(?)を見てみることにした。ちなみに、本作を見ることを躊躇っていた主な理由は“ハッピーエンドではなさそうだから”なのだが、その予想は必ずしも当たっていなかった。

さて、主人公のフランソワ君は至って真面目な好青年であり、エミリーに対しても自分が妻子持ちであるという事実を最初から隠そうとしない。しかし、気さくでちょっぴり奔放なところもあるエミリーはそんなことを気にする様子もなく、目出度く二人はハッピーな恋愛関係へと進んでいくことになる。

一方、奥さんのテレーズは洋服の仕立ての内職をして家計を助けている働き者であり、性格は素直で控え目。最近、とても楽しそうにしている理由を軽い気持ちで夫に尋ねたところ、隠し事のできないフランソワ君の口からエミリーとの不倫の事実を聞かされて衝撃を受けるのだが、優しい彼女はそのまま夫の愛を受け入れてしまう…

フランソワ君の言い分は、お堅いテレーズより奔放なエミリーの方がより彼の好みに合うのだが、先にテレーズに出会ってしまったのだから仕方ない、というものであり、真面目な彼は、今後、二人を同じように愛することをそれぞれに約束する。確かに、そうすれば二つの“幸福”が併存できたのかもしれないが、まあ、そう上手くいかないのが人の世の常っていうところかな。

ということで、明るい初夏の景色に始まって、落ち着いた晩秋の自然の中で終わるという、とても映像の美しい作品であり、その中心になるのは共に幸せそうな家族の姿。しかし、唯一、妻役がテレーズからエミリーに交代しているところが何とも言えない恐怖であり、幸福というものは外見からでは判断できないということが良~く分かりました。